大事なのは情報の集約と共有 「攻め」と「守り」の現場管理
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横島英輔乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 兼 事業戦略統括部 生産機能戦略部 統括部長/部長
江上潤三乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 担当部長
橋本邦彦乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 主任
中里直樹乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 主任
平地宏之乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部
technology&engineering - 多数のプロジェクトが走る現場を[一元管理]
2025年日本国際博覧会
2025年4月からの半年間で、約2557万8900人の一般来場者が訪れた2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)。象徴的な大屋根リングに囲まれた会場は、個性的なパビリオンで埋めつくされ、それぞれが考える未来社会を描いて見せた。その大阪・関西万博で、乃村工藝社は25のパビリオンを含む50以上のプロジェクトを担当。55年ぶりの大規模な国際博覧会に、かつてない態勢で臨んだ。乃村工藝社は、いかにして、広大な会場に散らばる50以上ものプロジェクトをまとめ、支え、つくり上げたのか。その要となった大阪・関西万博推進統括部のメンバー5人に語り合ってもらった。
現場に入れるように地固めをする

横島 各パビリオンの担当チームは、数年前からクライアントと作業をしてきていたのですが、万博推進統括部が立ち上がったのは、会場工事が本格化する少し前の2024年3月です。江上さんが1年先行して大阪に入り、協力会社とのパイプづくり等の下準備をしてくれていましたが、統括部ができた時点で現場着工まで3カ月しかない。
その一方で会社からのミッションは、プロジェクトをビジネスとして最大化することと、全社の動きとして取りまとめ、それをきちんと納めるという「攻め」と「守り」が大きなキーワードでした。まず、自分たちの役割を自分たちで設定するためにメンバーを集め、チームとしてどう動けばいいのかの議論から始めました。
私たちはパビリオンの現場を直接管理する役回りじゃない。パビリオンを管理している人たちを管理するのが仕事です。ですから、各現場の動きを先読みしバックアップしてくれるような人をメンバーにアサインしました。実際に工事が始まると、各現場、各工区ではさまざまな悩みや障害が出てくる。それらのリスクを抑え、解決した情報の全体共有や周知徹底が、統括部の大きな仕事になりました。
江上 会場は、各ゼネコンを中心に大きく4つの工区に分かれています。乃村工藝社の現場は4工区全部に散らばっていたのですが、工区ごとにルールが違う。装備だけでも、ある工区では、全員が必ず反射ベストを着用とか、ヘルメットには必ず防暑タレを付けるとか。防塵マスクや切創防止手袋の着用など、ルールの違いもありました。そして、それを守らないと現場には入れない。作業に取り掛かることすらできないのです。
橋本 車両についても、落下防止の親綱とか、昇降階段を付けるとか、タイヤの輪留めとかも、工区によって細かなルールが違いました。全部、安全管理のためのルールですね。それぞれの工区ごとに新規入場者教育というのがあって、その教育を受けて、さらに場合によっては、現場の建屋ごとの新規入場者教育を受けるとか、さまざまなルールがありました。
中里 ですから、私たちは乃村工藝社全体の窓口として、工区ごとのルールの違いを事前に把握し、整理して、現場に入ってくる各パビリオンの担当者や協力社に伝える。いわば、現場に入るための下地づくりから始めました。4工区ありますから4つに色分けして、工区ごとのルール集をつくりました。

現場には、見えない線があるんです
中里 安全ルール以外にも、伝えるべき情報はたくさんありました。広大な工事現場で、人とモノとが現場にたどり着かなくてはならない。通勤ルートは、最初はバス、途中から地下鉄に変わりましたけど、会場工事の進捗状況で通れるところがどんどん変わりますから、それを知っておく必要がある。情報収集を各現場単位に任せてしまうと、全員がスムーズに集まれる現場と、そうでない現場が出てしまう。乃村工藝社の現場は、全員が入場ルートに困らず現場に着けるようにしようというのが、まず私たちが目指したところでした。
モノの搬入ルートについては見えない線があって、各工区の境界線をまたいではいけないのが全体ルール。なので、迂回ルートを確認する。車両が通行できる道も頻繁に変わりますから、最新の情報にアップデートして伝える必要がありました。また、仮設トイレの位置なども重要な情報でした。それらを工区ごとに紙の資料にまとめて配布するようにしましたけれど、紙だけじゃ見てもらえるとは限らない。見ない人もいる。末端の職人さんたちに至るまで、全員に周知させたいということで、平地さんと一緒に印象に残る動画をつくってそれを配信するようにしました。
平地 会場の現場にアクセスする道順とかは、正直なところ多分誰も正確には分かっていなくて、不安でしかない。紙の地図に書いてあっても、間違う人はいると思うんです。でも、実際に通った動画を見せれば絶対に間違わない。クルマに乗って正しい道順を動画撮影していくんです。それを早回しに編集して、道案内動画として配信すれば、関係者全員が遅延なく現場に着ける。道順だけでなく、装備や安全ルールなど、新規入場者教育の要点も動画で見てもらえるようにしました。
それと顔認証システムの説明動画もつくりました。万博工事の現場に出入りする人は、全員が顔認証の登録をするのがルールです。ただ、その登録手順がややこしい。自分のスマホで自分の顔を撮影して登録するのですが、説明の書類を渡しても、うまくできない人がけっこう多い。それで、登録の手順を動画にして、誰でも分かるようにしました。
横島 どんな年輩の職人さんでも、スマホで顔を登録しなければならない。その操作をやりたくなくて、万博の仕事はしたくないという職人さんもいらっしゃる。工事関係車両の乗り入れルールの面倒さなどもあって、江上さんが事前に協力社さんとコンタクトしていた段階では、「万博やりたくないなあ」という声が結構ありました。ですから、そこのネガティブなハードルを下げる活動を私たちのチームでやろうよ、ということだったんです。

おつりが来るくらい、現場をケアしよう
横島 それらの情報収集と整理を、各パビリオンの担当者がやっていたら大変なことになる。工区ごとのルールも含めて、いったん私たちが集約し、情報を伝えることで時間的な節約になりますし、労力も減る。私たちも、最初からそこまで細かな情報共有が必要だとは思っていなかったのですが、実際に工事が始まってみるととても一筋縄ではいかない。先読みして、対策しすぎても「おつりが来るくらい、各現場をケアしよう」というのが、チームの合言葉でした。
江上 今回、乃村工藝社の現場には、社員も含めて5万1000人が入りました。協力社の責任者の方からは、情報集約と伝達が分かりやすいと高い評価をいただきました。工事の進捗によって、工区のルールも頻繁に更新されていきます。搬入ルートだって、通行禁止の場所が出て、日々、変更になる。だから、提供する情報の更新がかなり重要でした。しかも、提供した情報が末端まで行き届いているかどうかの確認も必要です。そこまでやっても、実際には届いていなかったケースもありましたので、それは今後の課題ですね。
中里 情報の更新でいうと、動画は作成に手間がかかるので、リアルタイムでの更新には追いつかない。それで、全社的にスマホの施工管理アプリを使いました。関係者にアカウント登録をしてもらい、そのお知らせ機能を使って情報を一斉に配信する。まず施工管理アプリで発信して、次に紙の資料で回し、追っかけで動画配信する。3通りのルートで情報が届くわけです。施工管理アプリは、建築業界で使われているアプリで、図面や資料、工程表などを登録しておくことができます。チャット機能でスピード感ある連絡もできる。万博のように複数の現場が同時並行で動くプロジェクトには有力なツールでした。


月20回の「安全衛生協議会」
中里 情報発信で大切なことは、やはり安全に関するものでした。大きくは、統括部で主催する災害防止協議会という会議で、私たち側から各現場に呼びかける安全対策がひとつ。それとは別に、各パビリオンが1カ月ごとに開く安全衛生協議会があります。そこで情報交換をして、情報や方針を持ち帰る。統括部は、安全管理担当である橋本さんと、その工区の担当者が出席していましたので、橋本さんは、月20回くらいは安全衛生協議会に出席していました。
橋本 情報を発信するのに加えて、日々の安全点検が重要でした。毎日、安全パトロールに歩くんです。事前にきちんと指導や教育をした上で現場に入ってもらうことが第一段階。それでも、仮設材を組んだり、足場材を組んだりと現場が錯綜してくると、危険な部分が目に付くことがあります。そういう時は、その場で資料を見せながら指導をして、写真を撮って災害防止協議会で全現場に共有するようにしました。不安全行動をやりがちな現場というのもありましたので、そんな現場は安全パトロールの頻度を多くして、教育のやり方も工夫しました。日々の安全パトロールは、主に江上さんと私とで回りましたけど、統括部のメンバーはもちろん、大阪事業所の品質環境安全推進部の社員にも協力してもらいました。
中里 熱中症対策も安全管理の一環でした。気温が高く、日光を遮るものがない現場がけっこうある。統括部のメンバーで当番を決めて、早朝からスポーツドリンクをつくり、18ℓの保冷ジャグに詰めて現場事務所に用意。各現場に配りました。
横島 工事中、夢洲の現場全体への供給電力に不安があり、スポットクーラーのような強制的に冷やせる仮設材をなかなか投入できなかったんです。じゃあ、せめてカラダの中から冷やそうか、ということでしたね。
橋本 緊急避難的に始めたスポーツドリンクの配布ですけど、かなり評判がよくて、お代わりを要望されることもけっこうありました。熱中症対策としては、危険な数値になると警告音が鳴るWBGT計(暑さ指数計)があるのですが、これを調達して各パビリオンに配りました。各工区のゼネコン担当者も、熱中症対策には神経を尖らせていましたね。
中里 実現したのは1カ所だけですが、テントにスポットクーラーの冷気を吹き込むようにして、中で涼める部屋もつくりました。

万博は、施工段階も「祭り」なんです
横島 せっかく55年ぶりの大規模な国際博覧会ですから、ひとりでも多くの社員に現場を体験してほしい。そう考えて、まずは東京と大阪の営業・制作職採用の新入社員38人を現場研修に迎え入れました。研修は4班に分けて、1カ月ずつ。現場の作業と座学をセットにして学んでもらいました。座学は課題を出して、自分の頭で考えてもらうんです。
中里 「これ、どうなっているの」とか「なんで」を引き出す体験型の研修にしました。課題を与えて、それぞれが現場を見ながら自分で考え、翌週、発表してもらうんです。あとは、実際に手を動かしてもらうこと。基本的な建材で、壁、床、天井を組んでもらう。組み方は、建材のカタログを取り寄せて、きちんと読み込めば書いてある。それを自分たちで発見してもらう。研修後のアンケートでは、「仕事への理解が深まりました」との声が多かったです。
江上 万博の会期中は、突発的なメンテナンスが必要になる事態に備えて、半年間、シフトを組んで態勢をとっていました。でも、スクランブル発進するようなケースは非常に少なく、我々の成果物の品質の高さを再認識しました。そこで、横島さんが、いちばん万博の近くにいる私たちで、社内向けに万博を知ってもらう情報発信をしようと提案して、平地さんが「キテヨ、万博!」という社内報をつくってくれました。
平地 手分けして、各パビリオンの説明や楽しさを紹介しました。ほとんどのパビリオンを網羅できたと思います。あとは美味しいご飯の話とか、トイレの話とか。それを見て、社員がたくさん来てくれました。
江上 万博って、施工中から会期中までずっと「祭り」なんです。浮かれるという意味ではなくて、本当に日本中、なかには海外からも、あらゆる業者さんが集まってくる。接点ができて、話ができる。そこで経験できたこと、学べたことは非常にたくさんありました。現場事務所を構えることができて、そこが関係者の交流の場になったことも大きかったですね。


横島 通常、乃村工藝社の現場で、こんな規模の現場事務所を持つことは多くはありません。でも、ここがプロジェクトの「攻め」と「守り」の拠点になりました。材料商社の担当者に常駐してもらい、集中購買でコストを下げる。あるいは、現場で起きるさまざまな出来事も、現場事務所を起点に納めていく。多いときには80~90人が出入りする現場事務所の存在は、我々の社内関係者だけでなく、お客さまにとっても信頼感や安心感につながったと思います。
何をやればいいのか、雲をつかむようなスタートでしたけれど、今回の万博の仕事は、私自身も、とても勉強になりました。万博を経験した社員は、今後の仕事スキルやキャリア、人生観に影響があるのでは、と思えるぐらいのインパクトがありました。そして、乃村工藝社の仕事の幅広さと社会への波及力を再確認するいい機会になりました。未来に向けて、私たちにできることは、まだまだたくさんあると思います。

(2026年1月取材。記事の肩書は取材時のものです)
インタビュー写真=木内和美
プロフィール
横島英輔乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 兼 事業戦略統括部 生産機能戦略部 統括部長/部長
江上潤三乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 担当部長
橋本邦彦乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 主任
中里直樹乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部 主任
平地宏之乃村工藝社
営業推進本部 大阪・関西万博推進統括部
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