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文化施設は奥深くて面白い。「好き」を追求し進化を続ける乃村工藝社のデザイナーのあり方

型にはまらない自由な発想で文化施設の価値を生み出す。公共施設にも「+Museum」の発想で、水族館・動物園・図書館などさまざまな文化施設のデザインを手掛けるデザイナー稲野辺 翔が、文化施設づくりの醍醐味を語ります。

 

デザイナーとして携わる文化施設の面白さと、個性が光るチームづくり

デザイナーとして携わる文化施設の面白さと、個性が光るチームづくり

クリエイティブ本部 第一デザインセンター デザイン6部でルームチーフをつとめる稲野辺は、数々の文化施設のデザイン業務に従事しています。

稲野辺  「私が担当しているのは主に公共の文化施設で、博物館・美術館といったミュージアムをはじめ、水族館、動物園、図書館、こどもの屋内プレイパークなど、幅広いジャンルの施設を手掛けています」

ミュージアムを起点に、そこから裾野を広げ、自分にできることをいろいろとチャレンジしていると話す稲野辺。

稲野辺  「文化施設のプロジェクトは中長期スパンのものが多く、展示の基本設計と実施設計でそれぞれ1年ずつ、建物を新築で建てるところからだと3年以上掛かることもあります。


出来上がるまでに長い時間が掛かるので、例えば3年前の自分が描いた絵を実現するために、3年後の自分が日々奮闘します。だからなるべく、出来上がった後の『この場所にこんな未来があったらいいな』みたいな大きな夢を描いて、数年後の未来の自分にボールを投げる気持ちで進めています。大きな夢を描いていると、自分のモチベーションも維持しやすいので」

デザインの提案には、その施設のコンセプトまで考えることもあると語る稲野辺。

稲野辺 「お客さまから求められることの真意や、言葉の裏に隠された本当はこんなことを思っているといった潜在的なニーズを、コミュニケーションを取りながら引き出していくことが多いですね。そうすると、そこがどんな施設であるべきかなど、もっと大きな事業コンセプトやブランディングまで考えて提案することもあります。


特に文化施設のプロジェクトでは、お客さまの中に学芸員や水族館・動物園の飼育員、図書館の司書のような、自分の興味があることを一貫して続けてきた、その道を極めたプロフェッショナルがたくさんいらっしゃいます。


こちら側もそれぞれ専門性を持っているので、お互いにその知識を持ち寄って、コミュニケーションを取りながら良いものをつくり上げていく過程が、本当に楽しいんです」

2023年からはルームチーフとしてデザインチームを率いている稲野辺。メンバーについて、次のように語ります。

稲野辺 「ダイオウイカに興味がある人がいれば、リノベーションに興味がある人、こどもが好きな人など、さまざまなモノ・コトに興味を持つメンバーが集まっています。


好きこそものの上手なれ、ではないですけど、その興味が専門性というカタチでそれぞれの個性につながり、デザイナーとしてのアイデンティティになっていく。そういった個性と個性、好きと好きを掛け合わせて、それぞれの興味を持てるポイントを活かすことで、いろいろなことにチャレンジしていける可能性を広げていけるのではないかと思うんです。


だから、ルームチーフとしては、そういった個性の掛け合わせを大事にするようにしています」

個性が輝くチームで、文化施設の面白さを発信していく──それが仕事の醍醐味だと稲野辺は語ります。

 

展示的な視点から建築の可能性を追求し、文化の発信基地を創る

45mもの水月湖年縞7万年ギャラリー|「年縞博物館」

▲ 45mもの水月湖年縞7万年ギャラリー|「年縞博物館」


大学院で建築意匠を学んだ稲野辺。建築には構造や設備などさまざまなジャンルがある中で、デザインの道を選びました。

稲野辺  「建築学を学ぶ過程で制作した大きな模型では、ディテールを作り込むことが好きでした。建物を作って終わりではなく、その建物が実際に人々に使われているイメージまでデザインできた時にこそ、建物が仕上がったことになるのではないかと思っています」 

人が集い、交流する場としての建築。その可能性を探求したいという想いを持った稲野辺は、2013年乃村工藝社に入社し、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。

そんな稲野辺にとって、特別な意味を持つプロジェクトがあります。

稲野辺  「長い年月をかけて湖の底に堆積した層が描く縞模様の湖底堆積物──『年縞』を追求した、世界初の博物館『年縞博物館』です。初めて1人で展示デザインを担当したプロジェクトで、自分がずっとイメージしていた、内と外が関係しあうような空間をつくりたいということが出来たプロジェクトでした。


ここでは、45mもの展示壁に7万年分の年縞をずらっと展示しているのですが、ギャラリーは全面ガラスのウォールになっていて、里山の風景も展示の一部として見せていますし、外からは年縞の展示が建物の表情になって見え、展示・建築・ランドスケープの境界がない、調和のとれたひとつの世界観が実現できました」 

年縞博物館は、2018年のオープン以来多くの来館者でにぎわっています。そして、建築や空間ディスプレイの専門家からも高く評価され、数々の賞を受賞。この年縞博物館のプロジェクトは、稲野辺にとってひとつのターニングポイントとなりました。

稲野辺 「年縞は知れば知るほど興味深い領域だと感じますが、一般の人にも『わざわざ見に行く価値がある』と興味を持ってもらえるようにすることが我々の役目。年縞の縞模様を魅せるために今回たどり着いたのが『光』を使った見せ方でした。


それに、地元の方々にとっても、年縞が世界的な研究として認められ、地元の文化や技術に誇りを持てるきっかけになったのではないかと思うと、貴重な機会に携わることができたなとうれしく思っています」

 

生き物の魅力を伝えるデザインの挑戦

シュモクザメの群れを下から見上げるサメ影水槽‟神無月の景“|「四国水族館」

▲ シュモクザメの群れを下から見上げるサメ影水槽‟神無月の景“|「四国水族館」


ほどなくして東京に異動になった稲野辺は、自身の生き物への興味と、建築的な知識の掛け合わせが生かせる、自然史系のプロジェクトに多く携わるようになっていきます。

中でも稲野辺の心に強く残っているのが「四国水族館」です。シュモクザメの神秘的なフォルムを演出する水槽の設計は、デザイナーとして新たな挑戦となりました。

稲野辺  「シュモクザメ、別名ハンマーヘッドシャークは頭のカタチが出っ張っているシルエットが特徴的なので、それを眺めるためにはどこから見せるのが良いのかと考えたときに、下から見せるという新たな視点に挑戦しました。上に水の塊があるという浮遊感を演出して、間接照明で演出。遊泳する魚影を、直径4.5メートルの丸窓から見上げることで、圧倒的な臨場感と野生の姿を体験できます」

大好きな生き物の生態や魅力をどのように伝えるかを稲野辺は大切にしています。

稲野辺  「生きている命そのものを来館者に見せて魅了するような空間づくりを目指しました。どこかの水景をそのまま持って来るだけではなく、何を伝えたいかを出発点に考えていくと、いろんなデザインにたどり着くことをこのプロジェクトで学びました」 

時を同じくして、稲野辺の私生活にも大きな変化が訪れました。わが子の誕生は、仕事にも大いに影響を与えることになったと話します。

稲野辺  「育児と仕事を両立する中で携わったのが、『盛岡市立図書館』のリニューアルプロジェクトでした。


地域の人々に愛着を持ってもらう図書館にするために、施設を一緒につくっていきたいとの想いから企画したワークショップでは、児童室の象徴となる大きな天蓋ファブリックを、地域のこどもたちと一緒に制作しました。実験段階では、自分のこどもも参加させて、自然の中からお気に入りのみどり色を見つけたり、一緒に色を塗ったりしました」 

施設づくりのプロセスさえも地域の人々と共有する。その大切さを稲野辺はこう語ります。

稲野辺  「図書館というのは、行政サービスの中でも最も身近な存在だと思うんです。生活の延長にある公共施設だからこそ、利用する方々に親しみを持ってもらうことが重要なんです。


だからこそ一緒に施設をつくっていくことで、みんなに自分の図書館だと思ってもらえるのではないかと考えました。


もともとファンも多い図書館だったので、急にガラッと変えるのではなく、前の雰囲気は残っているけど、なんかちょっと違って良いよね、みたいなアイデアをたくさんちりばめた図書館になっています」 

 

文化の可能性を拡げ、魅力を伝え続ける情熱

文化の可能性を拡げ、魅力を伝え続ける情熱

デザイナーとしていまもさまざまな文化施設に携わる稲野辺には、文化という概念を拡張する「+Museum」という発想に挑戦しています。

稲野辺  「私が目指す『+Museum』という考え方は、博物館や美術館だけでなく、こどもの遊び場や動物園、水族館など、さまざまな施設をミュージアムとして捉え、いままで乃村工藝社が培ってきたミュージアムデザインの強みを、さまざまな領域へ広げていこうというものです。


そこに広がる無限の可能性を考えていくと、いろんなことが面白く感じられて、『ここはこうしよう』『こうすればもっと良い』とビジョンが広がるので、新しいアプローチにどんどんチャレンジしたくなるんです。その過程にとてもワクワクしますね」

型にはまらない自由な発想で、新たな文化施設の価値を生み出し続ける稲野辺。そんな挑戦の原動力となるのが、家族の存在だと語ります。

稲野辺  「こどもの目線も考えたデザインを心掛けるようになりました。自分のこどもと一緒に施設を回っていると、素直なリアクションをしてくれるので、それが参考になることも。子育てを通じて培われた感性は、より多くの人に展示の魅力を届けるヒントになっていると感じています」

今後、文化施設のデザインを担う仲間を増やしていきたいと考えている稲野辺。培ってきた専門的なノウハウをひとり占めせず、たくさんの人と共有したいと話します。

稲野辺  「話をすると興味を持ってくれる人が案外いるんです。そういった人たちに、文化施設ってとても面白いジャンルなんだよということを伝え、仲間を募っていきたいと考えています。


当社には、一人ひとりの『好き』を大切にする社風があります。興味があること、大事にしたいことをしっかり活かして、キャリア形成できるところが魅力的だと思いますね」

好奇心を原動力に、自分らしいキャリアを歩んでいく。そんな働き方を後押ししてくれる環境で、可能性を拡げ続けている稲野辺。ワクワクする楽しさを胸に、これからも文化施設づくりの最前線を走り続けます。
 

※ 記載内容は2024年5月時点のものです

稲野辺 翔(いなのべ しょう)
 

2013年乃村工藝社入社。建築的なアプローチを要する案件を多く担当し、2016年一級建築士資格を取得。ミュージアムデザイナーとして数多くの案件を担当。その後、自然史系施設を中心に実績を重ね、現在も「公共施設に+MUSEUMを」の発想で、水族館、動物園、図書館など広いジャンルを担当している。

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