杉本 たく(すぎもと たく)
学生時代は建築を学びスイス留学を経験。趣味の旅行を通じて建築の枠にとどまらない「文化を通じた国際貢献」への関心を深める。卒業後は国際的総合金融サービス会社に入社するも、空間づくりを通じて社会に貢献できる乃村工藝社の仕事に魅力を感じて入社。日本の魅力発信と世界への貢献を目指して挑戦中。
2019年に乃村工藝社に経験者採用で入社した杉本 たく。現在はホテルや展示空間、地域と連携する施設の企画に取り組んでいます。前職は外資系金融機関で働いていたユニークな経歴を持つ杉本。キャリアチェンジした理由や新たな仕事で見つけたやりがい、これからの展望を語ります。
▲ARTBAY TOKYO
クリエイティブ本部 プランニングプロデュースセンターに所属する杉本。ホテルを中心としたホスピタリティ領域を中心に、商業施設、図書館、博覧会等、様々な領域の仕事を手がけています。
「現在は主にホテルや商業、博覧会の仕事を担当していますが、そこから発展してまちづくりや新しい施設のブランディングといった業務も手がけています」
その代表的な実績の一つが、お台場で実施された『ARTBAY TOKYO』(会期終了)。これは臨海副都心エリアを拠点とするアートによるまちづくりプロジェクトで、この土地の魅力を引き出す空間づくりに挑戦しました。
「このプロジェクトで面白かったのは、私を中心としたチームがプロデュース的な立場で、外部の建築家やアーティスト、デザイナーなど、多種多様なクリエイターと協働したことです。世界的なアーティストから同世代の新進気鋭の建築家まで、さまざまな方々と一緒に作り上げていく過程で多くの刺激を受けました」
プロジェクトは2018年から調査を開始し、2020年後半に完成するまでの約2年間をかけて実施されました。
「お台場は商業施設がたくさんありますが、他の街にあるような歴史的な文脈がそれほど強くはありません。そこで、『お台場らしい空間や体験とは何だろうか』ということを、プロジェクトを象徴するARTBAYHOUSEというパビリオン建築のために招いた建築家の萬代基介氏と綿密な議論を重ねました。
そして、お台場は実は名前の由来となっている江戸時代に作られた島がいまも残っています。そこに自生する植物をパビリオンの中に移植して育てることで、建物全体が月日とともに緑に覆われ、変化していく空間を生み出しました。そこには屋根のない空間があったり、光の入り方が異なる部屋があったり。自然が入り込んできて移り変わっていく。人と緑の新しい関係を体験できる面白い空間ができあがりました」
コロナ禍でのオープンとなり、従来型の広報活動は制限されましたが、SNSを通じて予想以上の反響がありました。
「白い壁面が印象的な建築デザインを活かして、若い方々がSNSなどの撮影スポットとして使ってくれたり、建築の専門誌にも取り上げられたり、話題になりました。また、中に入居したカフェを通じて、デザイナーやクリエイターの方々との新しいつながりも生まれました。
床材に使用した砂利のテクスチャーは、特にお子さまの感覚を刺激し、さまざまな来場者の反応を引き出すことができたと思います。SNSなどを通じて口コミが広がり、最終的には行列ができるほどの人気のパビリオンとなりました」
現在は空間づくりのプロフェッショナルとして活躍する杉本。その原点は、幼少期に見ていたテレビ番組にありました。
「小学生の頃、テレビの住宅紹介番組を好んで観ていて、こだわりがつまった建物が紹介されるたびに、魅了されていました。5人家族の末っ子で自分の部屋がなかったこともあり、実家の建て替え計画を考えて、簡単な間取り図を用いて親にプレゼンしていたほどです」
しだいに建築を学びたいという気持ちが強くなった杉本は、大学では建築を専攻。その後スイスへの留学も経験します。そこで建築に対する新たな視点を得ることになります。
「スイスでは、建築の本質的な考え方を学びました。例えば学校や美術館を設計する際、その施設そのものの在り方から考えていくアプローチです。スイスは政治的・経済的に安定している国なので、『良い建築とはなにか』『美しい空間とはなにか』、純粋に空間や建築の面白さや美しさを追求できる環境がありました」
スイスの留学中、杉本の価値観を大きく変えた出来事がありました。
「日本では大学卒業後すぐに就職するのが一般的ですが、スイスではまったく違いました。社会学を学んでから建築を勉強したり、30歳半ばで学び直したりと、自分のペースで人生を組み立てている人が多かったです。自分が大切にしたいものは何かをじっくりと考え、様々な経験をしながら進む道を決めていく。その姿勢に驚きと感銘を受けました」
学生時代、各国を旅する中でスリランカを訪れた経験も、杉本のキャリアに大きな影響を与えます。
「スリランカで見た世界遺産の近くにある文化施設が、非常に印象的でした。修復作業が見える展示や参加型・体験型の展示を行っていて、とてもよくできていました。それが日本のODA(政府開発援助)のプロジェクトだと知り、このような国際貢献の在り方もあるのかと、強く惹かれましたね」
国際貢献に惹かれた杉本は、まずは学生時代に国際機関でインターンとして働き始めます。そこで「建築だけでなく、金融経済の知識も国際機関のキャリアを考える上では大事」だというインターン先の所長からのアドバイスによって、次のステップとして外資系金融機関を志望します。
「国際的総合金融サービス会社に入社しましたが、少人数で多くの業務をこなす、とてもハードな環境でした。一人ひとりのプロフェッショナリズムや、日々結果を出すことの大切さを学びましたが、ただ、金融は自分の興味関心からは遠い領域。貴重な経験ではありましたが、生涯をかけてやりたい仕事であるとは感じませんでした」
そんな中、偶然が重なって乃村工藝社と出会います。
「入社した最初の頃に携わった仕事が、未来の商業施設の在り方を考えるリサーチプロジェクトでした。領域は違えど、リサーチは前職でも経験していた業務。商業空間の歴史的変遷や国内外の最新事例等、試行錯誤を重ねながら夢中になって取り組みました。最終的には辞典のようなボリュームの、非常に内容の濃い資料となり、お客様にも評価を頂けました。同プロジェクトにアサインされたメンバーも個性的な人たちばかりで、このような面白い人たちと、未来の空間の在り方を考え、デザインできる。自分にとってはこれ以上ない仕事だと感じました」
▲ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園
杉本が初めて本格的に手がけた実績は、マンションギャラリー「Brillia品川南大井 コミュニケーションサロン oooi」です。マンションギャラリーの概念を見直し、新しい形を提案しました。
「従来のマンションギャラリーは販売前に突然現れて、販売が終わると撤去される『ブラックボックス』的な存在なのではないかと考えました。私たちはこの在り方に疑問を持ち、『これからの時代に相応しい新しいマンションギャラリーとはどのようなものだろう』という問いから始めました」
プロジェクトでは、マンション購入検討者だけでなく、地域住民にも開かれた空間づくりを目指しました。
「重要なのは、その地域での暮らしがイメージできるかどうか。そこで、1階と2階で空間を分け、1階を地域の方も利用できるコミュニケーションスペースにしました。マンションを買おうと思っている方はモデルルームを見た後に1階に降りてくると地域の方たちが話していたり、活動していたり、地域の雰囲気が分かり、リアルな暮らしのイメージが湧いてきます。
マンションができる前から、新しく入居される方と地域の方との関係が少しずつでき上っていく。そんな場所を目指しました。『縁側』のような、内側と外側をつなぐ空間をつくり、人と人とのつながりが外から物理的に見える、視覚的にも心理的にも開いた施設にしました」
この取り組みは、グッドデザイン賞を受賞。人、企業、地域をつなぐ新しい価値を提供し、社会課題の解決を重視した点が高く評価されました。
もう一つの代表的な実績が、「ザ ロイヤルパークキャンバス 札幌大通公園」です。このホテルプロジェクトでは、2つの大きなチャレンジに取り組みました。
「一つは北海道の木材を多様な形で使用すること。もう一つはホテルを地域のショーケースとして位置付けることです。北海道にゆかりある職人やアーティストによる家具、アート、写真、植物などが購入できる仕組みを導入。地域の作り手と宿泊客をつなぐことで、地域経済の循環を生み出し、ホテルが小さな経済圏の1つの拠点として、価値づくりの起点となるような場所を目指したんです」
また数々の新しい試みをする中で、30代以下のミレニアル・Z世代をターゲットに、あえて全ての客室にテレビを置かない選択をしました。
「札幌はジャズフェスティバルが開催される音楽の街。テレビの代わりにレコードプレイヤーを設置し、これが賛否両論を呼びました。ビジネスユーザーの方からは否定的な意見もありましたが、一方、若い世代には実際に針を落として音楽を聴く体験が新鮮だと、好評です。
良いホテルとは、作り手のパーソナリティが感じられる場所。最大公約数的な無難な空間ではなく、尖った体験を提供することで、記憶に残るホテルを目指しています」
杉本はこれからの目標について、これまで温めてきた夢の実現に向けて語ります。
「以前から私は文化を通じた国際貢献をしてみたいと考えていたため、日本を飛び出して世界、特にアジア地域で仕事をしていきたいですね。施設としてはホテルでも文化施設でもいいのですが、国づくりに関われるような施設や空間がつくれるといいなと思っています」
2025年3月にルームチーフに昇格し、チームマネジメントの立場となった杉本。リーダーとしての想いを次のように語ります。
「乃村工藝社に入って感じるのは、チームとしての集合知の豊さ。集まることで生まれるクリエイティビティの素晴らしさです。一人の突き抜けた才能が引っ張て行くというよりは個性豊かな集合体として、その掛け合わせで面白いアイデアや新しい空間が生まれていく。一人ひとりの面白い個性や特徴を活かした空間づくりを、プロジェクトでもルームのメンバーに対しても大切にしていきたいと思っています」
乃村工藝社の良さは、先人たちが築き上げてきた長い空間の歴史を活かせるところだと杉本は言います。
「大切にしているのは歴史から学ぶという視点。その中で、自分たちがつくる空間を通し、先人たちが紡いできた思想やクリエイティビティをどのようにして一歩進められていけるかを常に考えています。お客さまからの課題に全力で応えることはもちろんですが、同時にクリエイターとして歴史を引き継ぎつつ、次の世代に何を残せるかを大切にしています」
この分野に興味を持つ方へ、杉本はエールを送ります。
「外から入った身として言えるのは、とにかく人が面白い会社だということ。デザイナーに限らずどんな職種の方でも、生涯にわたって関係が続いていきそうな、かけがえのない出会いがたくさんありました。プロジェクトごとにメンバーを編成していくので、どんどん新しい人たちとも出会える。本当に面白い人たちと、大小さまざまなジャンルのプロジェクトができる会社です」
必ずしも建築や空間デザインを専門的に学んでいなくても大丈夫だと、杉本は言います。
「文学部出身など多様なバックグラウンドを持つ方が活躍されています。自分の好きなことの延長線上に仕事を見出せる場所。興味があれば、ぜひ飛び込んでほしいですね」
※記載内容は2025年5月時点のものです
学生時代は建築を学びスイス留学を経験。趣味の旅行を通じて建築の枠にとどまらない「文化を通じた国際貢献」への関心を深める。卒業後は国際的総合金融サービス会社に入社するも、空間づくりを通じて社会に貢献できる乃村工藝社の仕事に魅力を感じて入社。日本の魅力発信と世界への貢献を目指して挑戦中。
お問い合わせ/お見積もり依頼/資料請求は下記よりお気軽にご連絡ください。
お問い合わせの多いご質問や、よくいただくご質問は別途「よくあるご質問」ページに掲載しておりますので、
ご活用ください。