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利益と公益を両立した公民連携事業を──持続可能な事業モデルの実現に向けて

ビジネスプロデュース本部で公民連携プロジェクトの開発に携わる小笠原 明徳。企画やデザイン、設計、制作にとどまらず事業運営までを担い、前例のないビジネススキームの構築にも果敢に取り組んできました。これまで手がけてきた主なプロジェクトを振り返りながら、公民連携事業にかける想いを語ります。

 

PFI事業に初の代表企業として参画。公民連携でめざす官民一体となったまちづくり

既存のビジネス領域の枠を超え、持続的な事業運営に向けた新たなビジネススキームづくりを手がけるビジネスプロデュース本部。中でも公民連携プロジェクト開発部では、公共と民間とが連携してプロジェクトを組成し、ビジネス化する取り組みを進めています。小笠原が所属するのはPFI課。民間の資金や技術を活用した公共事業を主に担当しています。

小笠原 「PFIはプライベート・ファイナンス・イニシアティブの略で、民間の資金とノウハウを活用して、公共施設等の設計や建設整備、維持管理、運営を行う手法です。目下進めているのが、『(仮称)静岡市海洋・地球総合ミュージアム整備運営事業』です。これは、静岡市の清水港の一角に、水族館と博物館の機能を併せ持つ“海洋・地球に関する総合ミュージアム”を新設しようというもの。当社としては今回初めて、PFI事業の代表企業として参画しています。

われわれが担うのは、展示制作および運営業務です。公共施設の運営業務には2001年ごろから取り組んできましたが、入館料によって運営費用のほとんどを賄おうとするのは今回がはじめて。民間側が運営の収入リスクを担う形になっているのが、今回のPFI事業の大きな特徴です」

PFI事業を実施するに当たっては、特別目的会社(SPC)が設立されるのが一般的です。今回、プロジェクトに参加する企業等と共に、乃村工藝社が代表企業となって「株式会社静岡海洋文化ネットワーク」を立ち上げ、小笠原は同社の取締役に就任しています。

小笠原 「PFI事業では、特別目的会社(SPC)が自ら資金調達を行い、市からのサービス対価および入館料収入を原資として借入金を返済したり、SPCの構成企業である各事業会社に業務委託を出したりする仕組みになっています。乃村工藝社は代表企業であり、株主であると同時に、委託を受ける受託業者でもあります」

事業コンセプトは、“駿河湾とつながるみんなのキャンパス”。大学や国立研究機関などと共に、地球環境と海洋、人のつながりを探究する楽しさが伝えられるような施設をめざしています。

小笠原 「まるで大学のキャンパスのように、学びや学術を軸として、そこに集まる人たちが中心となって街に賑わいが広がっていく。そういうコンセプトで事業活動を行う予定です。SPCに協力いただいている東海大学や、JAMSTEC(海洋研究開発機構)など海洋に関わるさまざまな方々と連携しながら、調査研究・交流・創造・発信といった事業を進め、官民一体となって海洋文化拠点を構築していけたらと思っています」

同プロジェクトが見据えるのは施設単体の成功だけではありません。最終的なゴールとなるのは、“国際海洋文化都市・清水”の実現です。

小笠原 「当プロジェクトがベースにしているのは、施設が建てられる埠頭地区の再開発構想。この施設は、まちに賑わいを取り戻していくためのリーディングプロジェクトとして位置づけられています。拠点施設となって新しいまちづくりを盛り上げていくことが最大のミッションです」

 

公共施設の運営委託に見いだした新たなビジネス。スキームの考案がマイルストーンに

▲東京都水の科学館|4面映像に囲まれる大迫力の「みずのたびシアター」

父親がミュージアムの研究をしていたことから、博物館のような社会教育施設に興味を持つようになったという小笠原。大学で放送技術を学んだ後、より幅広い表現に関わりたいとの想いで選んだ就職先が乃村工藝社でした。

入社後に配属されたのは、希望していた文化環境事業部。企業ミュージアムなどの担当を経て携わったのが、東京都水道局の『水の科学館』でした。

小笠原「施設を全面リニューアルするプロジェクトにリーダーとして参加し、プロジェクトマネジメントを担当しました。当初は、調査、企画、デザイン、設計、施工といった通常の展示業務だけを請け負っていたのですが、その後、施設の管理・運営を包括的に委託する包括管理業務委託というスキームについて、提案する機会を得ました。

当時はそのようなスキームで運営業務を受託した前例は皆無。委託業務の形態でありながら、事業者のインセンティブを確保し、いかに創意工夫を発揮するか、が課題となりました。

何度もシミュレーションを繰り返すなど苦労しましたが、運営業務のなかで実施するイベントや広報施策などを企画し、施設の集客をどのように拡⼤していくかを提案した結果、受託することができました」

小笠原にとって、この出来事はその後のプロジェクトを推進していく上での大きな糧となります。

小笠原 「たとえば、“水の日”にちなんだイベントを企画してニュースリリースを出し、記者に来てもらうなど、限られた予算の中でも露出効果が得られることを学び、実際に期待以上の広報効果につなげることができました。それまで当社があまり注力してこなかった集客のための一連のプロセスを経験できたことは、とても大きかったと思っています」

 

業界初となる文教施設分野でのDBO事業をリード。困難なプロジェクトで得た手ごたえ

▲浜松科学館「みらいーら」|サイエンスショーが行われている、みらい―らコア


その後、小笠原はチーフに就任。大規模な文化施設のプロジェクトマネジメントを担当するようになりますが、中でもチャレンジングな取り組みだったのが、浜松科学館「みらいーら」です

小笠原 「延床面積が6,000平方メートル以上もある大きな施設の展示改修の設計・施工・運営を一手に担い、基本設計から竣工までを約1年半という短期間で行うものでした。

自治体が事業主体となるこうした施設の場合、長いときで10年、短くても3年はかかるのが普通です。そのような中、指定管理者として管理運営業務も請け負うため、運営計画と設計作業を同時に進める必要がありました」

当時、設計・施工・運営を民間事業者が包括的に一括受注する、いわゆるDBO方式(※)によるプロポーザルを文教施設の分野で獲得したのは、業界初。社内にもノウハウがない中、プロジェクトを率いる小笠原はここでも試行錯誤を迫られます。

小笠原 「博物館をつくる際は、行政や運営を担う学芸員がまず施設の方向性を決め、それに基づいてわれわれが展示空間について提案するという流れが一般的です。ところが、時間がなく運営計画と展示制作が同時進行だったため、社内でも運営チームと展示制作チームが互いに主導権を譲り合い、プロジェクトが停滞する期間が長く続いていたんです。

そこで、プロデューサーのような立場から統括すべきと判断し、当時の部長の力を借りて全体的なコンセプトを設定。それをソフト(運営)とハード(展示制作)それぞれのチームに落とし込み、プロジェクトをまとめていきました。

いまとなっては当たり前の手法ですが、当時の乃村工藝社には前例がほとんどなく、手探りの状態。幅広い業務領域を並行して検討しながら整合性を図る必要がありました」

約17カ月という短い期間での設計・施工・運営を成功に導いた小笠原。反省点が残るとしながらも、同プロジェクトを通じて大きな手ごたえを感じたと言います。

小笠原 「施設を運営する“人”の魅力こそが来館者を惹きつけるし、リピーター獲得につながるというのが私の考え。科学館でいえば、学芸員の方によるサイエンスショーこそが最大の目玉だと思っていて、施設の一隅につくられることが多いショースペースを浜松科学館ではど真ん中に配置し、どこからでもステージが見られるように設計しました。

こうしたプランニングの発想は、運営予定者が設計段階から参画したからこそ生まれたもの。DBO方式ならではの展示空間が実現できたと思っています」

※ DBO 方式(Design, Build, Operate):資金調達を公共が行い、設計・施工・維持管理・運営を民間事業者に包括的に一括発注するもので、公民連携の一つの方式

 

公民双方にとって有益なビジネススキームの確立を。教育や子育ての分野にも意欲

公民連携の最前線で運営リスクを進んで取る道を選択し、先陣を切って事業の幅を広げてきた小笠原。これからもそのスタンスに変わりはありません。

小笠原 「商業やイベントといった分野の請負事業は寡占状態で、価格競争に陥っているのが現状です。他企業と同様、当社もまた、SDGsなど従来のビジネスでは避けられてきた公共の領域に、積極的に参入していく必要があると思っています。

とはいえ、人口減少が社会問題となる中、民間事業者だけが利益を得るようなビジネスには持続性がありません。公民双方がリスクやリターンをシェアしていけるようなマネタイズのスキームを考え、サービス品質を向上させていきたいですね。

とくに、公共事業では前例が重視されます。大きな利益が期待できる分野ではないだけに、リスクをうまくコントロールできるよう、まずは経験値を積んでいくことがいまの目標。そうやって成果を積み上げていくことで、当社が代替のきかない存在になっていけると考えています」

これまで公共文化施設の領域で存在感を発揮してきた小笠原。そこで培った経験や知見を武器に、今後は教育や子育ての分野にも手を広げて行きたいと語ります。

小笠原 「共働き世帯が増加したことで、子どもがひとりで過ごす時間がますます長くなってきました。経済を優先することで子どもたちに皺寄せがいかないよう、施設の空間づくりや運営の面から、教育現場の改革にも関わっていきたいと思っています。

また、両親が働きに出ることで、地域コミュニティの希薄化が進んでいます。休日にお父さんお母さんが情報交換できるような仕組みを、公園事業に採り入れる試みを始めているところですが、そうした社会課題を解決するようなソーシャルグッドな取り組みにも、率先して取り組んでいきたいですね」

会社の利益を、お客様、そして社会の利益に——都市空間開発において官民が協働する時代を迎える中、より良い空間とまちづくりをめざしてきた小笠原と乃村工藝社にとって、公民連携事業の新たなページがいま開かれようとしています。

 

 

小笠原 明徳(おがさわら あきのり)
 

「日本が世界に誇るミュージアムをトータルプロデュースする」をスローガンに乃村工藝社に入社。公共文化施設の営業・PMを担当。2010年都内某科学館の事業で運営マネジメントに従事以降ミュージアムの企画から運営までをトータルにプロデュース。2022年に水族館PFI事業の特別目的会社を設立し同社取締役に就任。

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