高橋 建司(たかはし けんじ)
大学でインダストリアルデザインを学び、2000年に乃村工藝社入社。以来、どんな仕事でも「人と情報がどのようにコミュニケーションするべきか」を常に考えながら、企業ミュージアム、イベント、アミューズメント施設、文化施設などジャンルを問わず様々な業態にチャレンジしている。
企業のショールームから文化施設まで、幅広い分野で空間デザインを手がけてきた高橋 建司。展示物の本質を捉え、独自の視点と切り口で感動体験を生み出すことにこだわり続けた高橋が、20年以上に及ぶキャリアで培った空間づくりの極意と、デザイナーとして大切にしている想いを語ります。
クリエイティブ本部 第二デザインセンター デザイン7部で、ルームチーフとして9名のメンバーを率いる高橋。市場領域を超えたさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
高橋 「大阪事業所のデザインチームは、商業系、企業系、文化系と大きく3つの分野に分かれていますが、私たちのルームは企業のショールームやミュージアムから文化施設の展示空間まで、分野を問わず幅広く手がけています。
現在も複数のプロジェクトが同時進行していますが、どの分野でもその施設の本質を捉え、それをどう伝えるかを考えるプロセスは同じです。最近では事業の構想段階から関わり、展示空間だけでなく、建築デザインの提案にまで携わる機会も増えてきました」
これまでに高橋が担当してきたプロジェクトは多岐にわたります。現在進行中のプロジェクトは、そんなキャリアの集大成ともいえるものです。
高橋 「いま携わっているプロジェクトは、製品展示フロア、体験展示フロア、ワークショップ、カフェ、ショップからなる複合施設です。水族館や博物館、飲食店、物販店、テーマパークのアトラクション、そして建築デザインの経験も生かしながら、これまで培ってきた技術と知見を総動員して取り組んでいます」
選り好みせず、あえて幅広い仕事に挑んできた高橋。デザイナーとして譲れない信念があります。
高橋 「お客さまとの対話を重ね、もっとも伝えたいメッセージを見つけ出し、それをどう表現すれば来場者の心に深く響くかを追求しています。扱う商品やコンテンツは施設ごとにさまざまです。常に新鮮で独自性のある切り口を意識し、お客さまにワクワクしていただけるような提案を目指してきました。
私たちつくり手が感動できないものに、来場者が共感し感動することは難しいと考えています。写真や資料を見て理解したつもりになるのではなく、現地や現物を確認することも大切にしています」
▲ 日和山海岸ミュージアム
入社後、主に企業系展示会の分野で活躍してきた高橋でしたが、その一方で、コンペに積極的に取り組んできたことが、キャリアの幅を広げるきっかけになりました。
高橋 「初めてコンペに参加したのは、デザイン部の部長から声を掛けられたことがきっかけでした。何度か挑戦するうちに、展示会と並行してコンペにも主担当として携わる機会が増え、社内の営業担当とも顔馴染みになっていきました。
コンペは他社との競争であり、高い創造力と迅速な対応力が不可欠です。大変ではありますが挑戦のしがいがあり、その経験がデザイナーとしての基盤になっていると感じています」
2014年にルームチーフに昇進した高橋。その翌年、「日和山海岸ミュージアム」のプロジェクトを任されたことが転機になりました。
高橋 「日和山海岸ミュージアムは、『城崎マリンワールド』内にある施設で、『いのち』をテーマにした“語る”ミュージアムです。繁殖活動を通じて得た知識や気づきを、施設で働く飼育員自身が語り伝えるというコンセプトのもとで空間全体をデザインしています。
飼育員の方々と直接お会いし、彼らが生き物とどう向き合い、どんな葛藤を抱えてきたのかを伺う中で、私が心を動かされた言葉をそのまま展示に採り入れることを提案し、それをデザインに落とし込んでいきました。
自分が表現したいデザインに真っ直ぐ向き合い、それが結果としてお客さまの共感を呼び、うまくかたちにできたプロジェクトだったと思っています」
このプロジェクトで高橋は、展示だけでなく、建築デザインから基本設計、施設ロゴデザインまでトータルに手掛けました。その背景には、長年かけて培われた顧客との信頼関係がありました。
高橋 「通常、建築と展示は別々に進められることが多いのですが、このプロジェクトでは建築のデザインも内部のコンセプトも、お客さまと膝を突き合わせて『本当にこれでいいのか?』と約3年にわたって議論を重ねながら共につくり上げてきました。
私は40年来のお付き合いを引き継いでいる三代目のデザイナーなのですが、企画の初期段階からパートナーとしてプロジェクトを進められたのは、歴代の先輩方がお客さまと信頼関係を築き、クリエイティビティを発揮できる環境が整っていたからこそだと思っています」
2019年のオープン後、「日和山海岸ミュージアム」は国内外のさまざまなデザイン賞を受賞。デザイナーとして、高橋は確かな手ごたえを得ました。
高橋 「展示では、横30メートルに及ぶ壁面を1枚の大きなキャンバスに見立て、メッセージ性のあるコピーを起点に、ビジュアルや展示をシンプルに配置しました。ミュージアムというとどうしても文字情報が多くなりがちですが、表現を極限まで削ぎ落としたことが受賞の評価につながったのかもしれません。
約20年のキャリアを経て、ようやく信頼できる仲間と共に自分の肩の力を抜きながら、表現やデザインにとことんこだわり粘り抜くことができるようになったと感じています」
▲ 城崎マリンワールド 魚類展示エリア「SeaZoo」
日和山海岸ミュージアムに続くプロジェクトとして、2024年に高橋は同じ城崎マリンワールド内にある魚類展示エリア「SeaZoo」のリニューアルも担当しています。
高橋 「展示コンセプトの立案段階から参加し、前回と同じ担当者や飼育員の方々と共に、空間全体のデザイン、水槽周りの壁面、生き物について伝えるためのコミュニケーションデザインを詰めていきました。
SeaZoo内の新しい展示『CUBE』のコンセプトは、『もっと、会話のある水族館へ』です。20個のキューブ型水槽や飼育員の方々との会話、イラスト、グラフィックボードを活用して、新たな驚きや発見を促す展示スタイルを目指しました」
「SeaZoo」では、余白を緻密にデザインし、主役である水槽を美術館の作品のように見せる構成を採用。コミュニケーション型の展示が、新たな体験を生み出しています。
高橋 「水族館というと、壁面に水槽が並び、来館者がその前をただ通り過ぎて行くだけということが少なくありません。そこで、水槽のそばにコミュニケーションボードを設置し、飼育員の方々が生き物を観察する中で面白いと感じたことや感動したこと、注目してほしいポイントなどを、あえて表現を統一せず、本人の言葉で短くテキスト化しました。
すると、水槽を見た後にコミュニケーションボードを読み、飼育員の方々の視点や想いを共有した上でもう一度水槽に目を向ける、という流れが生まれたんです。学術的な解説がただ並んでいるだけだと、来館者はボードに目もくれず先に進んでしまいますが、飼育員の生の言葉やイラストに足を止めてくれる方が増えました。
また、等身大の飼育員があらわれて語り掛けるモニターを随所に設置したことも功を奏し、来館者の滞留時間が大幅に延びました」
一方、2021年に当社クライアントと共に挑んだ「菊池環境工場クリーンの森合志」の「ごみ処理見学ルート」のコンペでも、大胆なデザインにチャレンジした高橋。これもまた、デザイナーとして大切にしてきた挑戦心が結実したプロジェクトでした。
高橋 「通常、このような施設では壁面で情報を提供するのがセオリーですが、壁と床の境界をなくし、説明グラフィックや展示コンテンツ、サイングラフィックを一本のラインでつなげた『すごろく』形式の情報空間をデザインしました。
見学ルートでは、ボードゲームのように壁や床に情報を点在させ、見学窓から見えるごみ処理設備の解説を読んだり、クイズに挑戦したりしながら、楽しくごみ処理工程を学べるようにしています。子どもたちを最後まで飽きさせないよう、絵本のページをめくるように次の工程へ進んでいける設計を目指しました。
どんな仕事であっても、その中に楽しめる要素を見つけ、自分が満足できるデザインを生み出すことが成功の鍵だと考えています。ジャンルを理由に取り組むか否かを判断するのではなく、どうすればそのプロジェクト自体を魅力的にし、お客さまに喜んでいただけるかを常に模索してきました」
▲ 菊池環境工場クリーンの森合志 「一つのラインに導かれ、物語をめぐる。ごみ処理見学ルート」
空間に独自の価値や体験をもたらすデザインの切り口や、感動を生み出す手がかりを見つけたときにやりがいを感じると話す高橋。ルームチーフとして、またデザイナーとして目指す姿があります。
高橋 「既存のセオリーに従う必要はありません。人によって着眼点はさまざまです。それぞれのメンバーが感動したことや、その強い想いを臆せず素直に伝え、それが結果としてお客さまの満足につながるようなデザインのできるプロ集団を目指していきたいと考えています。
個人的には、常に新しい表現を追い求めるデザイナーでありたいですね。現在は展示空間だけでなく、商業系施設の仕事も担当していますが、本質を見極め、それをどう伝えるかが重要である点は変わりません。今後もさまざまなジャンルに挑戦していきたいと思っています。
周囲からは『楽しそうに仕事していますね』と言われることが多いのですが、楽しみを見つけながら、自分が本当に良いと思えるデザインに取り組めているときがもっとも自分らしいと感じます。常識を疑い、不思議に感じたことを深掘りしながら着眼点を見つけ、デザインへと落とし込む。これからも自分が表現したいデザインと正面から向き合っていくつもりです」
そして最後に、20年以上にわたりデザイナーとして第一線に立ち続けてきた立場から、高橋は未来の仲間に向けてこう呼びかけます。
高橋 「乃村工藝社は、空間はもちろん、グラフィックや映像、そして建築まで、やる気さえあればやりたいことに何でも携われる会社です。ぜひこの理想的な環境で自分なりの楽しさを見つけてほしいと思います」
20年を超えるキャリアを積み重ねてなお、尽きることのない高橋の新たな表現への探求心。本質を見極め、感動をかたちにするその挑戦は、未知なる領域へとさらに広がり続けます。
※ 記載内容は2024年11月時点のものです
大学でインダストリアルデザインを学び、2000年に乃村工藝社入社。以来、どんな仕事でも「人と情報がどのようにコミュニケーションするべきか」を常に考えながら、企業ミュージアム、イベント、アミューズメント施設、文化施設などジャンルを問わず様々な業態にチャレンジしている。
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