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BIMルームのリーダーが注力する無限大の可能性。DX化の取り組みと、その活動がつくる未来

設計から施工、維持管理にいたる建築ライフサイクル全体で情報を活用できるBIM。業務プロセスの改革やSDGsへの貢献などさまざまな可能性を秘めたBIMの活用を推進するBIMルームのルームチーフを務めるのが妙中 将隆です。立ち上げ当初から携わる彼が、2023年3月現在までのキャリアの変遷とBIMの可能性について語ります。

 

BIMを活用した全社的な生産性向上がミッション。社内活動にも積極的に参画

▲「東京ミズマチ®」のBIMデータ。ウォークスルーで内部まで確認できる

BIMとは「Building Information Modeling」の略称で、コンピュータ上に作成した3次元データを使って設計や施工などを推進していく仕組みのこと。BIMルームでは、BIMを活用して業務を効率化し全社的な生産性を向上させたり、組織として新たな魅力を打ち出したりする役目を担っています。

妙中 「当ルームでは、社内におけるBIMの使用方法を統一化するためのガイドライン作成やオリジナルのシステムの開発による業務効率化、専用のアプリケーションに関する社内教育・研修などを行っています。社内教育に関しては、BIMの概要や基本的な操作方法をレクチャーするほか、BIMを使いたいプロジェクトがある場合は実践に直結するようなかたちでのサポートも行っています」

BIMルームに所属するメンバーは11名。妙中はチームを統括するルームチーフを務めています。

妙中 「BIMルームのメンバーはデザイン部門や設計部門、制作管理部門など、さまざまな部門から集まってきていて、配属されてからBIMについて学び、スキルを身につけている人がほとんどです。BIMはデザインや設計、制作管理のためだけにあるのではなく、全社的な仕組みにつなげて生産性を上げていくためのもの。多様なバックグラウンドを持った人が集まっていることは理にかなっていると思っています」

妙中はソーシャルグッド戦略協議会R&Dチームにも参画。“サステナブルな空間の指標化と商品化”と“空間と行動・心理の科学的実証”のふたつのテーマに取り組んでおり、BIMルームとしてもそこへ積極的に参画しています。

妙中 「前者のテーマでは、CO2排出量の可視化に力を入れています。BIMを使って設計すると、建築物に使用する材料の量を自動的に算出することが可能です。そのデータを使って、CO2排出量をグラフ化する仕組みづくりをしています。

さらに、そのBIMデータを活用しプレカット工法と呼ばれる新しい工法を推進する取り組みも進めています。これはBIMから抽出した3次元データを活用して精密なプレカット施工の実施をめざすもの。建材の切り出し方を事前に計画し工場でカットすることで、現場での工数を削減するだけでなく、廃材を減らしてCO2排出量を削減する効果も期待できます。

後者のテーマでは、“歓びと感動学”というプロジェクトを進めています。これは、人がよろこんだり感動したりする空間を科学的に検証し、それを空間づくりに活かそうという試み。中でも私は、VR空間での被験者の脳波が空間の内容によってどう変化するのか、研究を進めています」

社内活動を含め、さまざまなプロジェクトに精力的に携わる妙中。仕事をする上で大切にしていることがあります。

妙中BIMで業務を効率化することで、いかに社員本来のチカラを発揮できるようにするか、そして人々を感動させられる場づくりにつなげていけるかが大事だと思っています。自分自身がBIMで率先して実績を積み上げ、その有用性を広く周知してBIMの活用を拡げることで、業務の効率化を進め、全社的な生産性を向上させていきたいですね」

 

建物に縛られない1点ものの空間づくりに惹かれ、ディスプレイ業界へ

妙中が建築を志すようになったのは中学生のとき。「手に職を」と父親から勧めがあったことがきっかけでした。

妙中 「小さいころから自分の手でものをつくったり、絵を描いたりするのが好きだったんです。ものづくりの仕事に携わりたいと漠然と考えていたところ、父から『ものをつくるのであれば建築がいいんじゃないか』と言われて。そんな父の言葉をきっかけに建築の世界を知り、関心を持つようになりました」

その後、大学・大学院で建築を専攻した妙中。とくに大学院で建築意匠設計の設計課題に取り組んだことが、入社後の仕事にも活きていると言います。

妙中 「大学院では、設計課題が3カ月に1回と、比較的短いスパンで出されていました。集合住宅、市民会館、コンサートホールといったさまざまな建築の設計課題が出されたのですが、それらを設計するためには先行事例を見て回ることになります。さらに、学校の設計をする際は“教育”について、病院を設計する場合は“医療”についてと、各建築と紐づく業界に関することをイチから勉強する必要もありました。

これらを短期間で調べるのは大変でしたが、わからないことがあれば実際に足を運んだり、勉強したりするクセができたことは今も役立っています」

卒業後、乃村工藝社に入社する道を選んだ妙中。その背景には、同級生との再会がありました。

妙中 「ディスプレイ業界の存在を知ったのは、大学院1年生のとき。ディスプレイ会社で働いている高校時代の同級生と久しぶりに会ったとき、建物に縛られない一点ものの空間を自由な発想でつくっていると聞かされ、とても惹かれたのを覚えています。でも、私が通っていた大学院では、卒業後は組織設計事務所やゼネコンに就職するのが一般的。その時点ではまだ、自分もそういった企業に就職するつもりでいました。

考えが変わったのは、組織設計事務所でアルバイトをしたときのこと。高層ビルの設計図面整理、模型の作成を担当していたのですが、どれも個性のない単調な空間をつくっているようで、当時の私の心には響かなかったんです。そんなとき、友人が話してくれたディスプレイ業界のことをふと思い出し、ディスプレイ業界をめざすことにしたのです。業界のリーディングカンパニーである乃村工藝社に縁があって内定をもらい、入社を決めました」

2011年に入社した妙中は、ディレクター職として大型雑貨店やアパレルのショップなど商業空間の制作管理を約3年間担当。4年目からは設計部門に異動し、入社7年目の2017年に手がけた埼玉県の温泉施設がグッドデザイン賞を受賞するなど、キャリアを着実に積み重ねていきました。

 

お客さまのリアルな体験を視覚化できる、BIMの可能性に開眼

▲ 浅草と東京スカイツリータウン®を結ぶ「東京ミズマチ®」

設計部門で実績を積み上げていた妙中が、自己申告制度(※)を利用しデザイン部門への異動願いを出したのは2018年。設計部門で働き始めて4年経ったころでした。しかし、妙中が声をかけられたのはBIMルーム。当時の心境について、こう振り返ります。

妙中 「デザイン部門への異動願いを出していたので、当初は戸惑いがありました。でもせっかく声をかけてもらったからと、初年度はデザインとBIMの部門を兼任するかたちで携わらせてもらったのですが、あるプロジェクトに携わったことでBIMの可能性に気づいたんです」

そのプロジェクトとは、浅草と東京スカイツリータウン®を結ぶ鉄道高架下複合商業施設「東京ミズマチ®」のこと。次のように続けます。

妙中 「このプロジェクトでは、ランドスケープデザインにも携わっていたこともあり、その場所に来たお客さまがどういった体験ができるのか確かめたかったのです。1/50の模型をつくってみたのですが、模型ではよくわからなくて。そこで、BIMでフルカラーの3次元データを組み上げ、その中を自由に動き回れる“3Dウォークスルー”をつくってみたんです。

すると、広さ感、高さ感、見通し感みたいなことがリアルに体験できて、川と公園に隣接するエリアにどういった人の流れをつくろうかといったところまで、しっかり検討することができました。まさにBIMの可能性に開眼した瞬間でした」

BIMの可能性に気づき、BIMルームのメンバーにプロジェクトに参加してもらうよう、急遽要請した妙中。BIMをフル活用してプロジェクトを進める中、BIMのさらなる魅力を知ることになります。

妙中東京ミズマチ®」は、エリアに隣接する川と公園、高架下がすべて違う管轄だったので、今までであれば関係者の合意形成に多くのプロセスを要しました。でも今回は、BIMを使って視覚的なイメージを伝えられたことで、打ち合わせがかなりスムーズに進んだと感じています。

また、景観条例によって使用が認められていない色をあえて取り入れようとしたときも、BIMでつくったムービーや3Dウォークスルーを使用してビジュアルでお見せすることで、『これはいいですね』と納得していただけて。ルール上は認められていないものでも、全体的なイメージが伝われば承諾してもらえる余地があるとわかり、それ以降の提案の幅が広がった気がします」

※自己申告制度 :キャリア開発の一環として勤続2年以上の社員を対象に部署異動の希望を出せる制度

 

業界を生き抜くために。これからもDX化に、ソーシャルグッド活動にますますの注力を

BIMの可能性を肌で感じ、現在はBIMルーム専任で全社的な業務効率化や独自のサービス開発に取り組む妙中。とくに手ごたえを感じた出来事があります。

妙中 「プレカット工法を実装する提案をしたことでお客さまからプロジェクトのご依頼をいただいたときのことは、現在も仕事のモチベーションにつながっています。複数社が提案し、その中から発注先を決めるプロポーザル方式のプロジェクトだったのですが、当社が『BIMを活用してCO2の削減に取り組みます』と意思表明をしたことが大きな一つの決め手となり、お仕事をいただけたんです。

環境に対してしっかりコミットする意志を、実績や数字で示せることの大切さを実感しましたし、乃村工藝社がこの業界内で生き残っていくためにも、こうしたソーシャルグッドにつながる活動を強化していくことの意義を確信しました」

これからも会社に大きなインパクトをもたらすアプローチに関わっていきたいと話す妙中。今後をこう展望します。

妙中 「今後もBIMを含めたDX化に携わり続けたいと思っています。CO2排出量の削減にも応えられなければ仕事がいただけない時代になりつつありますが、他社に先んじて取り組めばそれだけチャンスも広がります。スピード感を大切にしながら、日々の業務に取り組んでいきたいですね」

無限大の可能性を持つBIM。その可能性を開けるかどうかは、社内の“人”の手にかかっています。妙中が、そして乃村工藝社が今後どのような道をたどるのか、目が離せません。

 

 

妙中 将隆 ( たえなか まさたか )
 

大学・大学院にて建築設計を学び、新卒で乃村工藝社に入社。 制作・設計・デザインの各部門を幅広く経験し、現在BIM推進を担当。 BIMをはじめとするデジタル技術をフル活用し、業界が抱える課題を解決しながら、お客様や社会へ貢献する新たなソリューションを生み出している。

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