プロスポーツの拠点として 30年前の熱気を 再び呼び込む
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金沢 敦さん長野市 スポーツ部スポーツ課
課長補佐 兼 スポーツ産業推進室長

渡辺智之さんNAGANO SPIRIT ビジネス本部
地域推進室 室長

右髙博之さん日建設計 設計グループ
アソシエイト

前川盛次さん乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第一統括部 開発1部 開発課 主任

岩野早希子さん乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 建築プロデュース部 ディレクション課 デザイナー
sustainability ─ レガシーを未来に活かす[高機能化プロジェクト]
長野市真島総合スポーツアリーナ(ホワイトリング)
長野・長野市
オリンピックや万博など、国家的な大規模イベントのレガシーをどう維持し、活用していくのか? 開催する都市にとって、常につきまとう大きな課題だ。レガシーをただ維持するのではなく、新たな価値をつくり上げ、未来に引き継いでいく。かつて冬季五輪に沸いた長野市では、官民一体で、そんなプロジェクトが進行している。
銀色に輝く「オリンピック・レガシー」

長野市内を流れる犀川と千曲川に挟まれたエリアに建つ長野市真島総合スポーツアリーナ。通称「ホワイトリング」は、まるで宇宙船のような銀色のシルエットが、遠く志賀高原や北アルプスを望む田園風景の中にすっかり溶け込んでいる。1998年長野オリンピックでは、フィギュアスケート、ショートトラックスピードスケートの会場として使われ、その斬新な姿を記憶している人も多いだろう。
以来、30年近くの間、ホワイトリングは、身近なスポーツの場として長野市民に愛されてきたと、長野市スポーツ部の金沢敦さんはいう。
「長野オリンピック後に、競技施設をどう使っていくのかは、最初の設計段階から想定していました。スピードスケートの会場だったエムウェーブ(長野市オリンピック記念アリーナ)はスケートリンクとして、アイスホッケー会場だったビッグハット(長野市若里多目的スポーツアリーナ)は、スポーツやイベントが開催できる施設として、そしてホワイトリングは、市民体育館として利用されてきました。
長野市内には、地域住民が日常的に利用できる社会体育館がたくさんありますので、ホワイトリングは、大きな大会などを開催する体育館という位置付けです。稼働率がかなり高く、市民のみなさんに親しまれています」
それら長野オリンピックのレガシー施設も、建設から30年が経ち、改修の時期を迎えていたと金沢さんはいう。
「自治体は、いったん施設をつくると、朽ちるまで使い続けることになりがちですけれど、長野市では、10年くらい前に方針を転換。きちんと施設の価値を見直して、使える施設はできる限り長く維持・活用していくことにしました。それで、使い続けたい施設については、順次、長寿命化改修を行なっていますが、ホワイトリングもそのタイミングでした」
アリーナ5000席のカベ

そのタイミングで飛び込んできたのが、長野県のプロバスケットボールチーム、信州ブレイブウォリアーズ(以下、ウォリアーズ)のホームアリーナ化の話だった。ウォリアーズの運営会社、NAGANO SPIRITの渡辺智之さんはいう。
「もともとウォリアーズは、長野市の有志が集まって、プロバスケットのチームをつくりたいね、というところから始まりました。でも、その当時は野球やサッカーなど、地元にプロスポーツチームがあって、バスケットはなかなか難しい。そんな時に、お隣の千曲市から地元活性化の一環にというお話があり、2011年に千曲市で立ち上げました」
当初は、bjリーグに所属していたが、2015年に2つのリーグが統合してBリーグが発足すると、ウォリアーズはB2カテゴリーに所属することになる。渡辺さんが続ける。
「当時、B1、B2にカテゴリー分けするのに施設の条件がありました。B1所属チームのホームアリーナには、5000席以上が必要なのです。私たちがホームアリーナにしていた“ことぶきアリーナ千曲”ではこの条件を満たせない。それでB2でのスタートとなりました。
でも、B2でスタートしてみると勢いがすごい。新しい監督、新しいチーム編成で、当時は1位を独走。この勢いでB1に行きたいというチームの想いが膨らんでいきました。それで、5000席のアリーナを持つ長野市に相談をして、受け入れていただきました。2019-20シーズンには、正式に長野市がホームタウンに、ホワイトリングがホームアリーナとなりました」
受け入れ側の長野市にとっても、ウエルカムな話だったと金沢さんはいう。
「長野市は、市民のみなさんのスポーツに対する親和性とか理解度が高いんですね。だから、プロのスポーツチームに来ていただくのはすごくウエルカムで、もちろん、反対がないわけではないですけれど、比較的、他の都市に比べてプロスポーツを受け入れる土壌がある。やはり、長野オリンピックの経験が生きていて、市民のアンケートでも、いまだに長野オリンピックへの評価は高い。まさに、市民の意識そのものがオリンピック・レガシーなんですね」
折しもBリーグはB1、B2カテゴリー制の見直しを発表。「B.革新」として、2026年秋のシーズンから、B1はBプレミアへとリニューアルされる。同時に、Bプレミアの参入条件が設けられ、入場者数や売上、アリーナ設備など、現行のリーグと比べ、より事業成績にウエイトを置いたものに変更された。そして、ウォリアーズはBプレミアの審査をクリア。2026年10月からBプレミアでの活動が決定した。
2026-27シーズンに間に合わせよう

Bプレミアへの移行に間に合うよう、ホワイトリングの改修を行なう長野市とウォリアーズにとって、Bプレミアのアリーナ基準に合わせた改修は、急務の課題となった。
「Bプレミアの施設条件は、観客席5000席とスイートボックス、ラウンジ、トイレの数といったものが大きなところです。ホワイトリングは、もともとオリンピックの会場ですので、席数は5000席以上あって問題はない。スイートラウンジなどをどう設置するかでした」(金沢さん)
ただ、時間がなかった。通常、市の施設を改修するには、改修工事の1件ずつで入札を行ない、単年度ごとに発注をしていく。それでは2026-27シーズンに間に合わない。そこで、特別なスキームが組まれた。渡辺さんが語る。
「長野市に相談をして、さんざん議論しました。それで出てきたスキームが、私たちNAGANO SPIRITが主体となって改修工事を進め、それを長野市がバックアップするというものです。たぶん、普通だったらひと言“無理です”と言われて終わるのですが、何度も何度も話しに行きました。そのたびに、市の方には根気よく聞いていただきました」
金沢さんはいう。
「目標がしっかりしていて、そのためにやるべきこともはっきりしている。だから、市の側でもギリギリまですり合わせて、調整したのだと思います」
お断りしようと思っていました

30年前にホワイトリングを設計したのは、日建設計だった。今回の改修にあたっては、まず日建設計に打診が行った。30年前、若手として設計チームに参加した日建設計の右髙博之さんは、改修は断ろうと考えていたという。
「当時とは法規制が変わっていますから、まず法的に難しい。お断りする方向で会議に来たら、市やウォリアーズの幹部の方がずらりといらして熱気がすごい。断れる雰囲気ではなかったので、いったん持ち帰らせてもらいました。
改修で大きなネックになるのは、法的な防災基準です。ホワイトリングは、当時の建築基準法第38条の認定を取っているのですが、その後、法規制が変わって、大原則は、現在の避難計画、避難検証法に適合させるだけではなく、すべての現行法に適合させねばならない。だから、お断りせねばと」
しかし、そこを乗り越えられたのも長野市の対応だった。右髙さんが続ける。
「長野市の建築担当部署と話をしました。担当の方が前向きで、上司の方も交えて相談をしました。現行で出されている防災計画書を基に、安全側のどんな書類にまとめるのか、すり合わせをしていく。その協力のおかげで、現行法ではなく既存不適格(旧法)のままで、改修しても防災計画や避難計画の安全性は既存通り確保ができているという資料をまとめ、改修可能な判断をしていただくことができました」
建築面での改修の打診と並行して、内装面での改修は乃村工藝社に依頼があった。Bリーグでは、Bプレミアライセンスの要件にアリーナ基準を設けている。アリーナを「夢の街づくり」の核として、地域にプロフィットをもたらす活性化ドライバーと位置付けているからだ。
乃村工藝社の前川盛次さんはいう
「東京2020オリンピックを境に、スポーツ競技会やイベントにおける乃村工藝社の立ち位置が変わったんですね。以前はショップとかミュージアムといった施設の中の一部分だけを担当することが多かった。それが、競技場を含めた施設全体の魅力をどうつくり上げるのかまで担当させていただくようになったんです。
Bリーグが開催した、アリーナづくりの知見や各地の取り組みを共有する “アリーナ共有会” でクラブ向けセミナーを担当させていただいた際に、事例を交えながら“夢のアリーナ”について語りました。そうしたら、すぐにご連絡をいただいたんです」
交渉、また交渉で乗り越える

こうして、市も含めた4者が一丸となった改修作業が始まった。Bプレミアのアリーナ規定では、総席数に対する一定の比率で、スイートボックス(個室)、ラウンジ専用席を設け、その利用者のためのラウンジも必要になる。これらが目に触れるいちばん大きな改修箇所だ。
ホワイトリングには5000以上の席があり、その一部を振り替えればいいので、スペース的な問題はない。しかし、新築とは違う、改修ならではのハードルがいくつもあった。
「例えば、細かなルールでは、スイートボックスには屋根が要る。しかし、防災法規上、すでにある観客席に屋根付きの個室は増設できないんです」(渡辺さん)
「昔の競技場では、ボックス席は密閉されたものが多かったんです。プライバシー保護や防犯が目的だったと思います。でも最近、米国のアリーナなどでは、オープンなバルコニー席で、部屋もオープンな個室が増えています。バスケットでは、シュートのダーンッて音なども生で感じたいじゃないですか。みんなでBリーグを説得に行きました。プライバシーが守れる個室は別に用意しますからと」(右髙さん)
「結局、固定の屋根ではなく、透けている形のルーバー天井を提案して、それで認めていただきました。避難経路の確保なんかもそうですけど、クリアしなければならない法規や課題がたくさんあって、みんなで一緒にアイデアを出し合って、ひとつずつ交渉していきました」(前川さん)
長野市らしさって、なに?

スイートボックスやラウンジのデザインは、乃村工藝社のデザイナー、岩野早希子さんが担当した。関係者みんなが納得するデザインにたどり着くまで、かなりの紆余曲折があったと岩野さんはいう。
「スイートなので、普通の席ではなく、特別な観戦体験を実現したい。他のアリーナの特別ラウンジですと、高級感やエッジのきいたデザインをベースにすることが多いんです。“ブレイブウォリアーズ”は、戦士とか武士という意味ですから、なおさらカッコいいものにしたい。壁に墨で武士のイラストを描こう、なんて案も検討しました。そう考えてデザインをご提案したら、市のほうから“なんか違う。長野市らしくない”というご意見が出てしまいました」
そこからは、関係者の間で白熱した議論が繰り広げられた。結果、岩野さんはデザインの方向性を大きく転換する。
「結局、どのくらいウォリアーズの色を出すのか、いかに長野市の地域性、土着性を盛り込むかの選択でした。議論の中で、長野市から、長野市民が使うときに受け入れられやすいデザイン、市民感覚にマッチしたデザインというコンセプトが出て、そうかと納得がいったんです。
でも、長野らしさって、なんだろう。山々の森の中にいるような感じとか、無垢の県産材の温かみだとか、あとはキーワードとして、居心地の良さ、柔らかさといったことを、みなさんに挙げていただきました。それで、あらためてホワイトリングを見ると、コンクリートでマッシブだけど柔らかい曲線ですし、全部の観客席が木でできている。どちらかというと質実剛健で、素材感があって、温かみがある。そして曲線。そのような要素を取り入れて、みなさんの合意をいただきながら、最終的なデザインにたどり着きました」

完成したラウンジには、ふんだんに木が使われ、柔らかな造形の家具や照明が優しい表情を見せる。スイートボックスは、部屋とテラス席の二段構成で、部屋の床には県産材の栗を使い、やはり柔らかな木のイメージ。独立した特別感と開放感、そして試合がよく見えるアングルを研究したという。
内装のデザインについて、右髙さんはこう受け止める。
「長野の自然と馴染んで、言葉では言い表せないデザインですね。そこに人が入ると色が付くみたいな感じがいい。長野の優しさは人です。試合を見ていると、サポーターの人たちは、負けても選手の健闘に拍手してくださるほどですから」
いまだに新しい30年前のコンセプト
2025年末には、第一期改修工事が終わり、2026年には引き続き第二期改修工事が行われる。第二期では、スイートボックスの数を充実させるといったアリーナとしての魅力を高める高機能化改修が先行し、次いで30年経ったホワイトリングを長く使い続けるための長寿命化改修工事が行われる。

「現在、2部屋が完成しているスイートボックスは、最終的には14部屋にする計画です。全部同じ仕様にするのではなく、例えばお子さん連れのファミリールームのように、色々な観戦体験をご提案する予定です」(岩野さん)」
「よそのアリーナを見学すると、個室は企業向けが多いんですね。でも、私たちはまず市民向けで、後から企業向けを加えました。それで、デザインのつくり込みでは、かなりご負担をおかけすることになりました」(渡辺さん)」
乃村工藝社の前川さんは、関係者のタッグであらゆるハードルが乗り越えられたという。
「ウォリアーズが核になって、Bリーグ、元設計の日建設計、乃村工藝社と、さまざまな出会いがあり、緊密な関係ができました。それを長野市がバックアップしてくださる。しかも、みなさんが目指すベクトルがすべて一致している。こんなプロジェクトは、なかなかありません」
長寿命化改修では、現代のアリーナ機能にすべく、設備関係の改修が欠かせない。日建設計の右髙さんはいう。
「まずは防災設備の更新。それから空調、電気系、通信系は30年前の設備ですので、性能的に更新が必要です。オリンピックのような国際大会で使用される演出や特殊な放送用の設備は、長野オリンピックの時は、仮設で付加して対応しましたから、大会後に撤去されている。ですから新設を考えねばなりません。
照明はナトリウム灯から、照明での演出が可能なLEDへ変更が必要ですし、天井から下がっているラッパ型スピーカーも、J型の配列でクリアな音が出せるラインアレイスピーカーに交換します。Bリーグの試合だけでなく、ホワイトリングを使うすべての人々の視点でビジョンを詰めて、設計に盛り込みました。すべての改修が完了するまで5年くらいかかりますね。
今回、30年ぶりにホワイトリングに関わりましたけれど、再認識したのは、建物のコンセプトが古くなっていないこと。今、米国ではコンコースとアリーナが一体となったオープンアリーナが主流ですけれど、30年前にそれをつくっていた。だからこそ、空間的な要素には手を加えることなく現代的なアリーナに変えてゆくことができる。30年前の仕事が今に生きましたね」
「市民の誇り」として、レガシーを未来に引き継ぐ
長野市の金沢さんは、今回の高機能化改修について、市民の歓びを感じているという。
「長野市民はオリンピックの施設を誇りにしていて、すごく大切にしてきたんです。それを上質に維持する改修をして、Bプレミアの試合が見られるようになる。レガシーに付加価値が付くわけで、市民のみなさんはもちろん、多くの市職員もその価値を実感しています。そして価値を最大化していく。経済価値や社会的価値はもちろん、コミュニティやシビックプライドの醸成も目指していきたいと思います」
ウォリアーズの渡辺さんは、Bプレミアの試合を通じてオリンピック・レガシーを若者に引き継ぎたいという。
「長野オリンピックの当時、地元で僕は20歳くらいでしたけれど、あの熱気は今でもよく覚えています。これからホワイトリングが観客でいっぱいになって、スポーツの熱気が盛り上がる。それを今の若者に知ってもらうことが、オリンピック・レガシーの継承そのものじゃないでしょうか」

(2026年2月取材。記事の肩書は取材時のものです)
取材・文=能勢 剛(『日経トレンディ』元編集長)
写真=吉澤健太
プロフィール

金沢 敦さん長野市 スポーツ部スポーツ課
課長補佐 兼 スポーツ産業推進室長

渡辺智之さんNAGANO SPIRIT ビジネス本部
地域推進室 室長

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前川盛次さん乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第一統括部 開発1部 開発課 主任

岩野早希子さん乃村工藝社
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