空間創造のあらゆるシーンを担う、乃村工藝社の事業開発に取り組む吉田 潤一郎。現在はビジネスプロデュース本部で、屋内遊び場の事業開発を担当しています。多岐にわたる空間づくりのフェーズの中で、施設の運営・活性にも挑戦する吉田に、チームの力を最大限に引き出す心得や家庭と仕事を両立する働き方について聞きました。
空間をつくり、活性化させる。「運営」の視点で広げる、空間創造の新しいサイクル

乃村工藝社では人が集う多様な空間において、構想から調査・企画、デザイン・設計、制作・施工、運営・活性化まで携わっています。空間完成後もその価値をさらに高めるための「運営・活性」を核とした新たな事業領域への挑戦が繰り広げられています。
その最前線であるビジネスプロデュース本部 事業開発統括部 事業開発プロデュース部で課長を務めるのが吉田です。運営事業を軸とした新規事業の開発や領域拡大をミッションとして掲げ、空間創造の循環型サイクルづくりにチャレンジしています。
「これまでは、空間をつくり上げてお客さまへの引き渡しをもって完了というビジネスが主流でした。
しかし現在、私たちが取り組んでいる事業では、空間をつくった後に10年以上の長期スパンで自社が主体となって運営までを担います。どのように地域の人々に愛される施設にしていくかを考え、行動する。そのプロセスすべてに関われることが、今の仕事の最大の魅力であり醍醐味ですね」
地域の多様な企業や団体とチームを組成し、地域を回りながら関係性を構築していく。事業の川上から川下までをトータルでデザインする中で、これまでのキャリアも活きています。
「私は企業系の施設を中心に担当し、幅広い経験を積んできました。一見すると異なる領域に見えますが、そこで培った制作管理の知識や営業としてのアプローチ、そしてプロジェクトマネジメント(PM)業務を通じて学んだ第三者的な視点での橋渡し役としての動きが、多くのステークホルダーを巻き込む現在の事業開発において、確かな土台となっています。
空間のデザイン・設計、制作・施工だけでなく運営・活性にも携わることで、実際に足を運んでくださるお客さまが喜んでその施設を使っている様子を目の当たりにできることがこの仕事の最大の原動力です。現在、屋内遊び場の運営に携わっているのですが、そこで出会った親御さん同士が仲良く会話している姿や地域企業と地域にお住まいの方々が交流している様子を見ると、大きな励みになります」
前例のない「自社投資×運営」への挑戦。妥協なきコンセプトが紡ぐ地域共創

吉田がPMとしてプロジェクトを牽引した象徴的な事例が、静岡県掛川市にある屋内遊び場「mirocco(みろっこ)」です。「365日通いたくなる施設」というコンセプトを掲げるこの場所は、同社が構想、企画・調査、デザイン・設計から制作・施工、一部自社投資、そして指定管理事業*₁までを一貫して手がけるDBO事業への挑戦となりました。単に体を動かすだけの場ではなく、動的・静的な遊びのバランスや子どもがこもれる空間など、細部まで工夫が凝らされています。
「当初は市の予算だけで進めていく予定だったのですが、それだけでは集客力の高い施設をつくるのは難しいと判断し、設計(Design)・建設(Build)・運営(Operate)を担うDBO事業に加え、民間企業である当社が一部設備投資を担い、類似施設では全国的にも事例のない事業スキームの提案を行いました。
さまざまな工夫を凝らし、運営面を含めたトータルパッケージの事業開発を行えたことが、自身の成功体験になっています」
この前例なきプロジェクトを推進する上で、吉田がもっとも苦慮したのは「乃村工藝社が自社で投資し、運営する遊び場はどうあるべきか」という本質的なコンセプトの確立でした。
「全国のさまざまな施設を徹底的に視察・分析する中で、子どもにとっては居心地がよくても親御さんにとっては少しくつろぎにくかったり、子育て世代以外を遮断してしまったりしている現状が見えてきました。そこで私たちがめざしたのは、親御さんも心地よく過ごせて、他世代の人々も自然と集える交流の場です。
社内でプランニング、デザイン、運営の各部門がフラットに意見を交わす分科会を立ち上げ、3カ月以上かけて徹底的に議論を重ねました」
スケジュールを優先して中途半端なものはつくりたくない。その強い想いから、一言一句にこだわって直営ブランド「Creative Play Park*₂」のコンセプトを策定しました。その中核として、内装のマテリアルの端材や廃材を活用して工作体験ができる「クリエイティブラボ」を提案しました。
この場所は今、地域の企業や団体がワークショップを開催する地域共創のスペースとして、施設最大の差別化ポイントとなっています。
「自治体や企業の方々と話してみると、幼少期に地域の仕事や企業に触れる機会が少なく、自分が生まれ育った地域にどんな仕事や企業があるか知らないまま成長して、大きくなったら別の都市へ移り住んでしまう人が多いことに課題感を持っている方がたくさんいました。
そのため、地元の企業にお話を持ちかけると、非常に強い熱意をもって共感していただけたのです。地域の皆さまと乃村工藝社が同じ未来を向くための強固な軸として、コンセプトを妥協せずにつくり込んだことが、プロジェクトの成功を導いたのだと感じています」
*₁ 地方自治体が設置する公共施設の管理運営を民間事業者などが包括的に担う事業
*₂ 吉田が所属するビジネスプロデュース本部が主導する子どものための屋内遊び場事業の名称。今後全国各地に展開予定
プロフェッショナルなメンバーたちを最大限活かす。傾聴と共感でチームを一つに

大規模な公民連携事業や新規の事業開発を成功に導く鍵として、吉田は「傾聴と共感」を掲げます。吉田自身、自分のリーダー像を「背中で引っ張るタイプ」ではなく、「バランス重視型」だと分析しています。
「乃村工藝社のメンバーは、それぞれ異なる専門領域を持つトップクラスのプロフェッショナルです。一人ひとりが強いこだわりや豊かな感性を持っています。
だからこそ、私が上から指示を出して引っ張っていくのではなく、それぞれの意見をしっかり汲み取り、メンバーの主体性を信じて力を最大限に引き出す環境づくりを何よりも大切にしています」
目的や背景を丁寧に共有した上で、メンバーが自ら考えて動けるのびのびとした場を整える。すると、それぞれに強い当事者意識が芽生え、結果としてチーム全体の成果が最大化していくと言います。
「メンバーの意見をしっかり傾聴し、共感する。その上でできるだけ早く同じ世界観を持ったチームをつくることが一番大切だと思っています。早い段階から共通のコンセプトやビジュアルデザインといった『共通言語』を確立できれば、最後まで軸がぶれない強いチームになります」
加えて、今回の屋内遊び場事業を通じて、ステークホルダーとの関わり方をあらためて学んだと吉田は振り返ります。
「今回のように複数の企業や自治体が関わるプロジェクトでは、組織間の意見のすれ違いや利益相反も起こり得ます。自社の利益だけを優先していては、周囲のパートナーはついてきません。『他所から来た見知らぬ会社だ』と思われないよう、どのように地域に寄り添うか。プロジェクト全体にとって、そしてその地域にとって何が最適最善なのかを常に考え続ける姿勢が不可欠だということを、身をもって学びました。
現在は屋内遊び場単体の事業を担当することが多いのですが、今後、チームとしてはこのノウハウをさらに発展させ、屋内遊び場に他の機能を掛け合わせた『社会教育複合施設』のような高難易度の開発にも挑戦し、全国に地域にぎわいの核となるコミュニティ空間を展開していきたいですね」
育児の視点はビジネスの「武器」。ライフステージの変化を強みに変える働き方
業務の中で新たな挑戦を続ける一方で、プライベートでは二児の父親であり、子育て真っ只中の吉田。とくに最近は第二子が生まれたばかりで、日々の生活は目まぐるしく変化しています。
しかし吉田は、仕事と家庭の関係を「どちらかのためにどちらかを犠牲にする」というトレードオフの構造では捉えていません。
「会社のメンバーともよく話しているのですが、子育てに時間を割くから仕事をセーブするという考え方はしたくありません。当社にはフレックス制度やリモートワークを活用しつつ、チーム内でお互いの家庭環境を尊重し合える風土があるため、それらをうまく活用し仕事と家庭の両立をめざしています。
仕事では限られた時間の中でいかに成果を出すかに重きを置き、家庭ではパートナーと家事・育児を徹底して分担しながら、うまく気持ちを切り替えて生活しています」
また吉田は自身の育児経験や父親としての目線を、そのまま事業開発の強力な「武器」として昇華させています。「mirocco」の計画時にも「お父さん1人でも子どもを連れてきやすい施設にしたい」という実体験に基づいたアイデアを反映させ、子どもを視界に入れながら親も一息つけるラウンジスペースを整備しました。
「ライフステージの変化はキャリアの足枷ではなく、むしろその人にしか出せない『強み』や視点のかけ算になると信じています。自分が仕事と家庭を両立していきいきと働く姿を見せることで、後に続く若いメンバーたちにとって1つのロールモデルになれたらうれしいですね」
常に未来を見据えて突き進む吉田が、乃村工藝社で描きたい未来とは。
「たとえば、住んでいる地域によって、得られる体験の機会に差が出てしまう『体験格差』をなくしていきたいですね。子どものうちから多様な人や価値観、経験と出会い、その子の好きなものを発見して伸ばしていけるような環境をつくるお手伝いをしたいです。
今取り組んでいる屋内遊び場における多様な遊びや地域企業との関わりがその一助になっていたら幸いです」
多様な職種を経験して培った確固たる基盤と、ライフステージの変化さえも価値に変える柔軟な姿勢は、これからの乃村工藝社、そして未来の空間創造の可能性をどこまでも広げていくことでしょう。
※ 記載内容は2026年6月時点のものです
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