藤沼 泰裕(ふじぬま やすひろ)
大学で建築を学び、2008年に入社。テーマパークや展示空間の大型特殊造形を手がけている。構想から制作・品質管理まで一貫して担当し、圧倒的な造形美を創出する。ジブリパーク「ハウルの城」など、象徴的プロジェクトに携わり、卓越した技術と情熱で唯一無二の空間を生み出し続けている。
テーマパークなどで来場者を魅了するモニュメントや装飾物などの「大型特殊造形物」。その制作を指揮するディレクターとして、数々のプロジェクトを手がけてきた藤沼泰裕。ジブリパーク 魔女の谷「ハウルの城」をはじめ、二次元のビジュアルを三次元の造形へと昇華させるスペシャリストです。彼が培ってきた制作管理の極意とは何か、そして今後のビジョンについて迫ります。
営業推進本部 第四事業部プロダクト・ディレクション1部 第2課に所属し、主任を務める藤沼。ディレクター職として、テーマパークをはじめとする非日常空間に、モニュメントや装飾物といった「大型特殊造形物」を創出し、数多くのプロジェクトを手がけてきました。
藤沼 「直近では、アート施設の大規模改修プロジェクトにおいて、所長として約1年間指揮を執りました。現在は工事も完了し、施設は無事オープンを迎えています」
藤沼が手がけるのは、訪れた人の記憶に残る、圧倒的な存在感を放つフォトロケーションやモニュメント。高さのある巨大造形や、空間一体を演出するスケールの大きな装飾など、その仕事は“非日常”をかたちにする、スケールと精度が試される創造の現場です。
藤沼 「大型特殊造形物の制作は、空間・構造・演出が高度に融合する、極めて複雑なプロセスです。素材の選定や構造設計はもちろん、内部に組み込む照明や設備の配置計画、分割・搬入・現場での据え付け方法に至るまで、すべての工程において高度な専門知識と精密なオペレーションが求められます。一つでも設計にほころびがあれば、全体の完成度に直結するため、細部まで妥協のない設計と管理が不可欠です。
なかでも最もシビアに問われるのが、“見た目”の完成度です。素材の質感や光沢、表面のテクスチャーに至るまで、緻密な設計と検証を重ね、本物以上のリアリティを追求します。作品全体のボリューム感を損なうことなく、世界観に没入できる精度で仕上げる──そのためには美術的な感性と構造的な知見の両立が不可欠です。単なる施工とは一線を画す、極めて高度な造形表現が求められます」
二次元のデザインを三次元へと昇華させるうえで、最も繊細かつ難易度が高いのが、「お客さまの頭の中にあるイメージをいかに正確に共有し、具現化できるか」だと藤沼は語ります。
藤沼 「最初にあるのは、二次元のイラストやパースのみ。そこから三次元の立体へと具現化していくのですが、使用する素材の質感や細部のニュアンスなど、具体的なイメージはお客さまの頭の中にしか存在しません。そのイメージをいかに正確に引き出せるかが、成功の鍵を握ります。
だからこそ、初回の打ち合わせでは疑問点や不明点をすべて洗い出し、とことんヒアリングします。“少し聞きすぎかな”と思うくらい細かく質問するのも、世界観を深く共有するため。お客さまの想像を超えるクオリティに仕上げるためには、最初のすり合わせこそが最も重要だと考えています」
細かなニュアンスのすり合わせを怠れば、完成物がイメージと大きくかけ離れてしまうこともあります。特に短納期の案件では、一度の判断ミスが全体の進行に影響を与えかねません。
加えて、来場者が実際に見て、時には触れるものだからこそ、安全性や耐久性への配慮も欠かせません。サンプルの提示や仕様確認を重ねながら、細部まで丁寧に詰めていくことで、高い品質と信頼性を両立させています。
藤沼 「大規模な造形物の場合、現場に搬入する際にパーツごとに分割して運搬する必要があります。そのため、どのように分割し、どの順番で搬送・搬入を行うか、さらには現場での組み立て方法も事前に緻密に計画しなければなりません。
制作の段階から、まるでパズルのように、構造や工程を精密に検討することが求められるのです」
▲初めて携わった「富士急ハイランド ナガシマスカ」 の招き猫
学生時代から「テーマパークの造作に関わりたい」と漠然と抱いていた思いを現実のものにしたのは、乃村工藝社に入社早々、先輩が主導する遊園地の現場で、アトラクションのシンボルとなるモニュメントの制作に携わる機会を得ます。
藤沼 「右も左もわからない中で、実際に業界の第一線に立つことができ、非常に感動した瞬間でした」
その後、ショールームや展示会などの内装業務を経て、本格的にテーマパークのプロジェクトに関わり始めました。しかし、翌年には案件の受注規模が縮小し、担当が藤沼一人となる厳しい状況に直面します。
藤沼 「限られたリソースでどうお客さまの期待に応え、さらに多くの仕事を獲得するかを必死に考えました」
と当時を振り返り、課題を乗り越える力強さを見せました。 次第に案件を獲得し、制作を担当しつつ営業業務も兼任するようになった藤沼は、大型特殊造形物の制作に関する高度なノウハウを積み重ねていきました。スケジュール管理、制作方法の検討、図面管理、見積もり、品質管理など、多岐にわたる業務を網羅し、そのすべてに精通。特に、限られた制作期間でのスケジュール管理においては、独自の手法を確立しました。このスケジュール管理法は、後にジブリパークのプロジェクトでも活かされ、高く評価されています。
藤沼の業務はただの制作にとどまらず、精緻な計画と迅速な対応力が求められる大型特殊造形物の世界で、他に類を見ない独自のポジションを確立しています。
藤沼 「2カ月分の全工程を最初に作成し、必要なタスクをリスト化して明確にします。『何月何日何時に、どこの工場に誰が来て、何を確認するのか』を徹底的に計画。これにより、プロジェクト全体の進行が円滑に進みます。
大規模なプロジェクトでは会議の日程調整や進行に無駄が生じがちですが、事前にスケジュールを共有することで、効率的に進行できます。スケジュール管理には常に細心の注意を払い、全員が同じタイミングで確認できる環境を整えています」
また、施工においても大きな挑戦があります。
藤沼 「テーマパークなど営業時間が決まっている現場では、作業時間が限られているため、進行を緻密に計画する必要があります。パーツの搬入、クレーンでの設置、電気配線、組み立てを効率よく進めるため、作業順序や人数を計算し、天候などにも配慮しながら作業を進めます。
こうした現場で培った判断力や効率的な作業進行能力は、現在の仕事の基盤となっています」
▲ 制作担当の仲間たち
藤沼にとってこれまでにない挑戦となったのが、2024年に完成したジブリパーク「魔女の谷」にある「ハウルの城」の制作でした。これまでの大型特殊造形で培った手腕が評価され、抜擢された本プロジェクトは、大規模な建築外装と一体化した前例のないスケール感を誇るものでした。
藤沼 「これまでの造形物よりもはるかに大きく、しかも建築と融合するのは初めての経験。考慮すべき点が多く、非常に難易度の高い案件でした」
世界観を追求するため、素材選定にも特別なこだわりを持って取り組みました。
藤沼 「全体監修を指揮したスタジオジブリ・宮崎吾朗監督からは、『軍艦のような、無骨でどこか怪しげな工業製品のように』という明確なイメージが提示されましたが、その世界観をどう造形として表現するかは決して簡単ではなく、素材や構造を一から検討し、具現化する必要がありました」
藤沼が導き出したのは、下地にFRP(繊維強化プラスチック)、表層に銅板などの金属素材を組み合わせる構成。重厚で無骨な存在感を表現しながらも、耐久性や施工性、現場での組立効率までを見据えた、精密な造形設計を実現しました。
藤沼 「これまでの案件は比較的単独で進めることが多かったのですが、今回は完全にチームプレイ。構造、メカ、造形、図面、要領書、現場管理──それぞれがプロフェッショナルとしての自覚を持ち、自分の役割を全うしてくれました」
過酷な現場環境でも、チームの士気が下がることは一度もなかったと語ります。
藤沼 「誰ひとり『無理だ』とは言わず、常に『どうすれば表現できるか』に真剣に向き合ってくれた。その前向きな姿勢が、このプロジェクトを前に進める大きな力になりました」
数多くの協力会社との連携を支えに、藤沼はその経験を経て、ディレクター職という仕事の醍醐味をこう語ります。
藤沼 「自分が関わった造形や空間に対して、『すごい』『かっこいい』『かわいい』といった言葉をいただける瞬間、その反応を直接感じられることが最高の歓びです。驚きや感動を届け、来場者に新しい体験を提供することこそが、この仕事の真の魅力だと思います」
大型特殊造形の分野で確かな実績を築いてきた藤沼。その歩みは、常に“挑戦する姿勢”を貫いてきた軌跡でもあります。
藤沼 「“これ、どうやって造ったの?”と驚かれるような複雑でユニークな造形にこそ惹かれます。難しければ難しいほど、やりがいを感じる。結果的に大型造形に関わることが多くなりましたが、本質的にはスケールやジャンルにとらわれず、“面白い空間”をつくり続けたいという気持ちが根底にあります。
固定観念にとらわれず自らの可能性を広げながら、次世代への技術の継承にも力を入れていきたいですね」
誰もが知るテーマパークやアミューズメント施設の空間演出を手がけてきた藤沼は、これからも“歓びと感動”を超える体験を生み出し続けます。
※ 記載内容は2025年2月時点のものです
大学で建築を学び、2008年に入社。テーマパークや展示空間の大型特殊造形を手がけている。構想から制作・品質管理まで一貫して担当し、圧倒的な造形美を創出する。ジブリパーク「ハウルの城」など、象徴的プロジェクトに携わり、卓越した技術と情熱で唯一無二の空間を生み出し続けている。
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