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博物館などの文化施設をプランニング。地域に寄り添いながら、新しい文化を築く

岸田 匡平は2009年の入社以来、博物館などの文化系施設の企画を手掛けています。施設内の展示をどのようなものにするのか、空間をどうデザインするのかなど、コンセプト作りから考える日々。人が集まる場所を作り、地域の文化を築いていきたい──そんな想いでひたむきに奔走する岸田の姿に迫ります。

 

「どれだけ地域のファンになれるか」フィールドワークを踏まえ、企画を練る

「仕事を通して、日本中にふるさとができました」

そう語るのは、クリエイティブ本部 プランニングセンターの岸田です。岸田はこれまで『のと里山里海ミュージアム』『福井県年縞博物館』『徳島県立博物館』『兵庫県立兵庫津ミュージアム』など、数々の施設をプランニングしてきました。扱うテーマはさまざまですが、いずれも地域に根ざした文化的施設です。

岸田の仕事は、まずその地域の魅力を体感するところから始まります。あるときは、漁師と共に船に乗り、またあるときは、学者と巨大地下施設に入り……。現地の人たちに寄り添いながら、どのような施設を作れば魅力が伝わるのか、プランニングを進めます。

岸田 「どれだけ地域のファンになるかが大事なんですよ。だから毎月のように現地に通い、打ち合わせをします。地元の方とご飯を食べながら仲良くなり、地域の魅力や人間の魅力に触れていくんです。

どこにいってもウェルカムな方が多くて、中には子どものように可愛がってくれる人もいます。ふるさとのように感じられるくらいその地域を好きになりながら、現地に転がっている疑問や驚きをすくい上げていく。それが、企画の土台になります。

体験から感じ取った魅力をもとに、その空間ならではの企画方針を練っていきます。たとえば、能登半島の里山里海を歩いていたとき、山から海に向けて見渡した風景がとても壮大で、このすばらしい風景を博物館で表現したいと思いました。そこで、正面と床面の2面映像を組み合わせて、まるで空中を散歩しているような感覚になるダイナミックな空間をつくり上げたんです」(のと里山里海ミュージアム

このようなアイデアは、自らの手でスケッチして表現するのが岸田のやり方。デザイナーやチームのメンバー、そしてお客さまを巻き込みながら「この地域の本質的な魅力って、こういうことですよね」とプレゼンを実施し、意見をすり合わせます。

岸田 「私は博物館で扱うテーマの専門家ではありません。だから、史実に詳しい学者や学芸員の話に耳を傾けながら、施設を作っています。

大事にしているのは、子どもたちや一般の方に、テーマをいかにわかりやすく伝えられるか。デジタル技術を駆使した展示にしたり、子どもにも親しみやすいような工夫をしたりしています。

2022年11月にオープンしたミュージアムでは、ホロレンズというメガネの形をしたデバイスを来場者が装着することで、空間の中に現れた当時の人が、演劇のようなドラマを繰り広げます。また、歴史を『歌って踊る歴史ドラマ』といった誰にでも楽しめるような表現にするなど、さまざまな手法でアプローチします」(兵庫県立兵庫津ミュージアム)

岸田がここ数年、とくに力を入れているのは“ソーシャルグッド”な施設づくり。外国人やハンディキャップのある方も楽しめるような「インクルーシブデザイン」を積極的に採り入れながら、世の中をさらによくするような施設を生み出しています。

 

「地域を幸せにする仕事がしたい」──農業と乃村工藝社を天秤にかけた大学時代

▲学生時代、地元の小学生と稲刈りに参加。今では少なくなった稲架掛け

大学時代、岸田は建築を専攻していました。夢中で取り組んでいましたが、ふと気づいたことがあると言います。

岸田 「『建築』を突き詰めて考えたあるとき、自分は建てることよりも、建てた後に築かれる文化や社会性、そこで過ごす人のことをデザインしたいのだと気づきました。『建築』の漢字でいうと、『建てる』よりも『築く』のほうに興味があったんですよね」

文化を築くことへの興味は、大学時代の課外活動にも顕れていました。岸田は課外活動として、大学がある都市から25キロほど離れた農村に頻繁に足を運び、地域のおじいさん、おばあさんの家に滞在していました。そこにあったのは、地域をにぎやかにしたいという想いでした。

岸田 「五右衛門風呂や薪ストーブがあるような昔ながらの家にお世話になっていましたね。現地の人たちの話を聞きながら、どうしたらこの地域をもっと良くできるのかを考えていました。

当時は、地域作りがしたいというよりは、地域にいる人たちを楽しませたい、幸せにしたいというモチベーションでした。だから、大学卒業後はこのまま農村で暮らして、半農半建築で生計を立てていくのもいいかなと思っていたんです」

建築デザインか?農業か?あるいは両方か?人生が楽しくなるのは何か?悩んでいたという岸田。しかしあるとき、乃村工藝社のシンクタンクである文化環境研究所の論文を目にします。論文を通して、乃村工藝社が博物館のデザイン・運営をしていると知った彼は、早速翌日、乃村工藝社が手がける『長崎歴史文化博物館』に足を運びました。

岸田 「統括責任者の方と話し、博物館がどんな意図でデザインされているのかを細かく聞きました。まさに、文化を作る仕事がそこにはありましたね。こんなにおもしろそうな会社があるのかと、驚いたのを覚えています」

岸田は「農業なら、もっと歳を重ねてからでもできる」と考えます。「だったら、まずは乃村工藝社に入って、地域をにぎやかにするための方法を吸収しよう」そう思い至りました。

岸田 「デザイナーではなくプランナーを志望したのは、施設の本質を考えるフェーズから携わりたかったからです。どのように人が集まって、どのように文化を作っていく施設にするのかを考える仕事に惹かれました。無事に内定をもらい、今に至ります」

 

どんな人にも伝わる展示を目指して、「インクルーシブデザイン」を強く意識

▲福井県年縞博物館。7万年分45メートルの年縞がそのままギャラリーにかざられている

2018年、福井県年縞博物館のプロジェクトで、岸田は初めてメインのプランナーを務めました。

岸田 「年縞博物館は、福井県にある奇跡的な湖から採取された『縞々の土』をテーマとした博物館です。湖の底の土には、春から秋はプランクトンの死がい、晩秋から冬には黄砂や鉄分……というように、季節ごとの歴史が縞模様になって蓄積されています。なんと7万年分の縞模様が残っているんです。このような、自然が描いた縞模様を『年縞』と呼びます。ほかにもサンゴ礁や木の年輪、北極や南極にある氷床も年縞の仲間と呼べるので、年縞博物館に展示することになりました。

まず、各分野の研究者に直接会いに行き、いろいろな資料を収集しました。最初は学芸員のいないプロジェクトだったので、私が情報を整理し、お客さまと研究者と一緒に施設としてのかたちを作っていきましたね」

振り返ると、年縞博物館でのこの経験が、岸田のプランナーとしてのスタイルを固めました。

岸田 「プランナーのスタイルは人それぞれです。中には『コンセプトはこれで』と概念を作り、後はデザイナーに任せるというスタイルのプランナーもいます。でも私の場合、マニアックなことでも自分で咀嚼して、自分で展示イメージの絵を描きながら作りたいんです。具体的なデザインにも言及し、デザイナーと意見をぶつけながら一緒に作っていく。試行錯誤を重ねることを楽しみながら、年齢や立場に関係なくフラットな意見をデザイナーと交わすという、自分の仕事の核を見つけたプロジェクトでした」

2021年に手がけた徳島県立博物館のプロジェクトも、岸田にとって印象的なものです。

岸田 「このプロジェクトでは、障がいのある方や外国人などに配慮した、いわゆるインクルーシブデザインを積極的に採り入れました。展示づくりをするとき、一般的には学芸員と展示会社のみで進めることがほとんどです。当プロジェクトでは、障がいのある方や外国人などと共に設計を行う、インクルーシブデザインワークショップを何回も行いました。そこでは、私たちだけでは気づけない多くの発見があるんです。障がいの有無に関係なく、誰もが楽しめる展示づくりに本気で取り組みました。

たとえば、聴覚障がいのある方向けの解説文で、文字情報を詰め込んだ解説文を提案したところ、当事者たちからはSNS上で利用するメッセージくらいの短い文章量が適切だという声が上がったので、書き方を工夫しました。また、視覚障がいのある方と一緒に、効果的な展示の仕方について、実際に展示物を触ってもらうなどコミュニケーションを取りながら考えていきました。

施設を作るときにはできるだけ多くの人が利用しやすいようにデザインを考えて設計していきます。しかし、私たちだけではわからない部分もあるので、さまざまな人に『実際にどう感じるか』を共に体験してもらうことで、多くの人に伝わる展示を完成させるんです」

 

博物館の枠を超えた「場」としての可能性を追求していきたい

岸田は今後も、インクルーシブデザインの領域に力を入れていきたいと考えています。

岸田 「たとえばLGBTQ+の方々や、発達障がい、知的障がい、精神障がいの方々と共に展示を考えるなど、新しくできることがたくさんあると思っています。インクルーシブデザインを採り入れると、より伝わりやすい展示にたどり着けます。展示の幅を広げ、魅力的な空間を作りたいですね。

すべてのプロジェクトで、どこかにインクルーシブデザインに取り組めるようになればいいなと思っています。そのためにも、地域のさまざまな人たちと一緒に施設を作っていければ嬉しいです。博物館を作る作業は、学びの観点から見てとても楽しい作業。そのプロセスに、多くの人を巻き込めたらと思います」

近年、国際博物館会議「ICOM」が打ち出す博物館の定義が変わりました。博物館を「インクルーシブな場にしましょう」という旨と、「市民がコミュニケーションを取り合って参加できる場にしましょう」という旨が、定義に加わったのです。岸田のビジョンは、このふたつの新しい定義に沿ったものになっています。

岸田 「従来の博物館という枠にとらわれず、新しい方法を積極的に採り入れていきたいです。私は、博物館の可能性って、もっともっと大きいのではないかと思っています。たとえばコロナ禍では多くの方が外出を控え、人と人が会う機会が減ってしまいましたが、博物館はそんな時代にも、人がリアルで関わることの楽しさを伝えています。大きな変化の時代に、博物館という場が、価値をもたらしているのです。

これからも、時代時代で未知なる新しいことが起こると思います。文化や社会がガラッと変わるようなことも起こるでしょう。そのようなとき、博物館が、それぞれの時代にどのような価値を生み出していけるのか。期待を胸に、これからも工夫を重ねていきます」

博物館の「場」としての可能性を追求する岸田。今後も、各地の魅力を伝えながら、新しい文化を築いていきます。

 

 

岸田 匡平(きしだ きょうへい)
 

博物館などの調査から運営準備まで展示づくりのプランニングを担当。地方のテーマ性が高い博物館の提案・企画・設計・コンテンツディレクションを行い、最前線の研究者と展示づくりを行っている。また、博物館におけるインクルーシブデザインや市民参加型など、新しい展示づくりや万博日本館の展示変遷の研究などを行う。

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