放課後の子どもも、地域の大人も、居場所にできる未来の学校とは
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新渡戸文化学園 理事長放課後NPOアフタースクール/新渡戸文化学園
代表理事/理事長
中村友羽乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第三統括部 公民連携事業開発部 主任
岡部 葵乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第三統括部 公民連携事業開発部
insights─未来のカタチ
[放課後NPOアフタースクール]の創始者として、放課後の子どもたちの居場所づくりに取り組んできた平岩国泰さん。地域をめぐる社会課題の解決を仕事のひとつにしている乃村工藝社の中村友羽と岡部葵。初めて取り組んだ共同プロジェクトでの創意工夫や、そこから見えてきたこれからの社会の居場所について、語り合っていただきました。
子どもたちの放課後が変わった!?

平岩 [放課後NPOアフタースクール]を構想したのは2004年です。ちょうど娘が生まれた頃で、子どもの連れ去り事件が多発していた時期なんです。それで事件の記事を読むと、見出しに「下校時」とか「下校中」という文字が多くて、発生時刻は午後3時とか4時なんですね。あとから調べたら、子どもの事件って、その7割が午後2時から6時の間に起きているんです。それで、平日の夕方に公園を覗いてみると、子どもの姿がない。私の子ども時代は、みんな外で5時までワイワイ遊んで、みんなで帰るというのが当たり前でしたから、「あれ、子どもたちの放課後が変わったのかも!?」と思ったんです。それで、「放課後」に注目するようになったのが直接のきっかけです。
アメリカでは、放課後の居場所「アフタースクール」が、色々な地域で社会インフラ化しています。それを知って、日本でも役に立てるかなと思い、活動を始めることにしました。最初は、市民の人で、子どもたちに何かを教えてくれる「市民先生」を企画して、先生役には、和食の料理人の方がすぐに見つかりました。それで、会場に学校を使わせてもらおうと学校に交渉したら、不審者扱いで相手にしてくれない。参加希望者もなかなか集まらなかったのですが、地元の民生委員の方の協力で、東京・世田谷区の公民館を会場に、参加者4人でスタートさせました。
その後、公民館アフタースクールはけっこう軌道に乗って、2カ所の公民館に参加者20~30人くらいが常時集まるようになったんです。でも、相変わらず公立学校には入れない。そうしたら、世田谷区がやっている学校の放課後活動のスタッフの方が、そこにプログラムを提供するという形で取り入れてくれたんです。
ただ、あくまで運営主体は自治体でしたので、NPOとして、学校内に常設のアフタースクールを開設する道を探っていたんですね。そんな時に、私立の新渡戸文化学園がチャンスをくださって、常設の場が実現しました。2011年のことです。その実績が認められて、ようやく公立学校の扉が開いたのは2015年になってからでした。
「日常の空間」が満たされることが大事なんです

中村 私が所属しているビジネスプロデュース本部は、さまざまな社会課題について、その解決方法を社会の色々な方々と連携しながら構想していく部署です。今、共働き世帯の増加や核家族化が進んだことで、放課後の子どもの居場所が不足していたり、大人も地域とのつながりが薄れつつあると感じています。
というのも、私自身が第一子の産休に入ったタイミングでコロナ禍になったんですね。色々なお出かけ施設が全部閉鎖されて、人とも会えないし、日中、まだしゃべれない子どもと2人だけの空間でずっと過ごさなきゃいけない。乃村工藝社は空間づくりを通じて「歓びと感動」を提供する会社ですけれど、その前提として日常の空間が満たされている必要があるな、ということを痛感したんですね。それで、復帰後は、もちろんハレの空間も大事だけれど、日常生活に密着した社会課題や空間に目が向くようになりました。
それで、同じようなことを考えていらっしゃる[放課後NPOアフタースクール]さんを見つけて、岡部と一緒に連絡させていただきました。
岡部 私は商業施設の運営に長く携わる中で、地域の方々の声を直接聞く機会が多くありました。その経験を生かし、次の一手として、公共施設の設計や運営などで、民間の資金やノウハウを活用するようなチャレンジをしたいなと思っていました。学校を核にしたまちづくりで、地域の人々の声を聞き、その地域の特性を生かしたにぎわいの創出を考える。そこで、学校に着目して、どんな取り組みができるのか、興味がありました。
中村 それで、放課後NPOさんから色々とお話をうかがっているうちに、一緒に川崎市の「放課後等の子どもの居場所づくり」に参加しませんかとお声掛けいただきました。
子どもたちの意見を、1人残さず生かしたい
平岩 今、子どもの声を聴くということが社会的に注目されていて、川崎市は、ずっと以前からそれを大事にされてきた自治体なんですね。その実践のひとつとして、放課後の子どもの居場所に、本当に子どもの声が生かされたものをつくりたいとお考えいただいたようです。それで、私たちのNPOにお声掛けいただいた際に、空間づくりのプロとして乃村工藝社さんにも参加していただき、共同で取り組めたらいいんじゃないかと思いました。
私たちは、これまで運営してきたノウハウを生かして、子どもたちが行きたくなる放課後の居場所を日本全国に広げていきたいと考えています。その構想の中で、空間づくりとかゾーニングはすごく大事なんですね。もともとは全然使われていなかった場所をリニューアルしたり、活用したりして、子どもの居場所を増やしていくことが必要ですから。私たちにも、子どもの声を聴いてこうしようというアイデアや発想はありますが、乃村工藝社さんの空間づくりのプロとしての視点を入れながら、家具選びとか、色遣いなどを一緒にやれたら素晴らしいだろうなと思いました。
中村 プロジェクトでは、子どもたち1人1人の意見を取りこぼさずに聴いて、それを空間に反映させたい。そのプロセスをどう組み立てるかということに一番時間を使いました。子どもの意見を聴くといっても、何もない状態で、小学校低学年の子たちに「この場所がどうなったらいいですか」とか、「何をして遊びたいですか」と聴いても、まず想像ができないし、思っていることを、思っている通りに言うことが難しい子どもも多い。たとえ言葉が出ても、その裏側にどんな潜在的なニーズがあるのか、読み取る必要もある。
放課後NPOさんたちと議論を重ねていくなかで、とても参考になった意見が、「仮設でいいから、アフタースクールの遊び場を再現してみましょうよ。そこで子どもたちに遊んでもらい、放課後に学校の中でこんなことができるんだ、ということを下地に持ってもらってから意見を聴きましょう」というものでした。それで、仮設の遊び場をつくりました。
岡部 段ボールをたくさん集めて、子どもたちが好きなように自分の空間をつくるとか、普通にカードゲームしたり、ぬいぐるみと遊んだり、工作ができるスペースを設けたり。テントも持ち込みました。秘密基地のつもりなのか、みんな隠れたがりですよね。
中村 仮の遊び場が終わると、場面転換をして、子どもたちの意見を聴くんです。うまく言葉にできる子、できない子がいるので、子どもたちの気持ちを引き出すためのカードをたくさん用意しました。
カードには、例えば、「読みたい」とか、「踊りたい」とか、やってみたいことが書かれています。また、それをやってみるとどんな気持ちを感じるのか、「わくわく」とか「どきどき」とか「そわそわ」とか。そういう修飾語のカードもたくさん用意して、それを1人でやりたいのか、みんなとやりたいのか、2~3人でやりたいのか。私たちが“目盛り”と名付けた大きな紙を用意して、気持ちが当てはまる場所にカードを置いてもらうんです。
岡部 その子どもたちの意見を、グラフィックレコーディングの専門家に、その場でかわいいイラストにしてもらいました。子どもたちは、自分の意見がすぐに可視化されてすごく喜んでくれましたし、この場所でやりたいことの解像度がすごく上がりました。そのイラストを壁に張り出して、当日、来られなかった子が付箋で意見を足せるようにしたら、1週間で60件以上も集まりました。
「1人でごろごろ」と「みんなでごろごろ」は違うんです

気持ちを表すカードを使い、1人1人の意見をくみ上げていった。
中村 出てきた意見は、まず全部、表にしました。やってみたいことをカテゴライズして、その裏にある気持ちを深掘りして、それをかなえる空間要素は何なのか、というところまでひも付けて分析していきました。
岡部 例えば、「ごろごろしたい」といったニーズがあるとして、それは1人でごろごろしたいのか、友達とじゃれ合いながらごろごろしたいのか、それによって温度感が違います。その違いを落とし込むには、ごろごろスペースをどう空間に配置するのかクリエイティブチームに考えてもらいました。

中村 空間設計のフェーズで気を付けたことは、個別の要望によって空間を仕切るのではなくて、共存させながらも、違うことをしている子たちが気にならないぐらいの距離感を、家具の高さや向きを工夫したりして実現するようにしました。子どもの見守りとか安全確保は、絶対に必要ですから。
それと、放課後の居場所としての専用空間ではないので、使用後は、その都度、原状回復が必要です。きちんと収納計画を立てる。使わない間は撤去できて、折りたたんだり重ねたりしながら、ふさわしい場所にちゃんとしまうことができる。でも、使う時には簡単に広げて場を構成することができる。私たちは「可変・可動」と言っていますけど、その工夫がすごく大事でした。
川崎市のプロジェクトでは、小学校高学年以上の子ども向けに「こども文化センター」を使った放課後の居場所もつくりました。そこでは、また別のアプローチで子どもたちの意見を聴かせてもらいました。
平岩 「こども文化センター」のオープニングイベントに行きましたけれど、本当に子どもたちが居心地よさそうでした。聞けば、元は倉庫兼会議室のような場所だったんです。そこをみなさんが片付けてくれて、子どもの声を聴いて、小学校高学年以上の子たちの居場所になった。ちゃんと子どもたちのニーズに応じたゾーンができている。後日、なかなか学校には行けない子が、そこには来てくれているといった話も聞こえてきて、まさに居場所が増えたことを実感しました。高学年以上の居場所って、社会的にすごく不足しているので、とてもいいモデルができたんだなと、改めて思いました。

「未来の教室」をみんなで考える
中村 昨年はもう一つ、経済産業省の「未来の教室」実証事業にも取り組みました。放課後NPOアフタースクールさんにアドバイザーとしてご協力いただき、地域の公共施設の核として学校施設をどう活用できるか、その可能性や課題について、法令調査やヒアリング調査など多面的な検討を行いました。さらに、実際の小学校において放課後の時間帯に教室を使わせていただいて、子どもたちに向けた体験プログラムの提供にもチャレンジしました。
岡部 プログラムの提供にあたっては、地域の企業や個人の方にも参画いただいて、色々な企画を用意しました。保護者の方々からは、「放課後に子どもが学校にいながら、自分が興味をもった体験に参加できたことが良かった」といった声を多くいただいたんです。
学校という身近な場を活用できれば、地域の大人と子どもがつながる接点が生まれ、子どもが自分の興味の“種”に気づくきっかけになったり、大人にとっても新たな発見があったり、双方にとって価値ある場になる可能性を感じました。
学校の空間には、無限の可能性があります

平岩 ある自治体の首長さんと話したら、その市が持っている公共施設の延べ床面積の半分が学校だというんですね。だから、「それが活用されてないのはもったいない」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思います。放課後は子どもたちに、夜は大人たちに使ってもらえばいいし、週末だって空いています。だから、それをもっと市民のために活用していきたいと思うんです。
もちろん、学校としての重要性とか、先生たちが責任感を持って毎日やっておられるところはちゃんと守りつつ、みんなでここを使って、学んだり、遊んだり、体を動かしたり、コミュニティをつくったり、時には防災の拠点にもなる。学校って本当に多機能で色々なことができる可能性がある施設なんです。スポーツができて、料理ができて、ものづくりもできて、理科実験まででき、Wi-Fiだって通っている。場所によっては看護師さんもいる。こんな空間はなかなかないですよ。そこでやれることは無限にあります。
中村 おっしゃる通りだと思います。公共施設は、図書館、公民館、学校など、これまでは単一機能で建ててきましたけれど、建設や維持管理のコストを考えると、これからは全てを核となる施設に集約して、多機能化や、時間帯に応じた多様化とか、1つの空間を重ね使いしていく方向だと思います。
空間をつくるのに、私たちが大事にしているのは、人の活動とか体験を起点に空間を設計することです。空間の利用者を想定して、その人が朝からどう過ごし、どういう気持ちでこの空間に来て、誰と交流して、どんな会話がそこで生まれて、何を触って、何を見て、どういう思いを感じ取って、最後に帰っていただくのか。そのシーンの1つ1つを想像するんですね。そういった具体的なシーンから、空間の機能やゾーニングを組み上げていきます。子どもが自身の価値に気づけたり、大人も他の世代と交流することで新たな発見ができたり、そんな人の輪が生まれる地域の居場所をつくっていきたいですね。そのために、これからも子どもたち、大人たちの声を聴くことを大切にしていきたいです。
平岩 私は「全ての主語を子どもたちに」ということをよく申し上げるんですね。これまでの学校教育では、「子どもに○○させる」という言い方が非常に多い。覚えさせる、学ばせる、通わせる……。でも、子どもたちが自分で決めたり、選んだり、学んだりという「探究学習」が、やはり大事だと思うんです。
今、私は、放課後NPO、学校法人、教育委員会と仕事のフィールドが広がっているのですが、全てに共通しているのは、大人が事前にお膳立てをしすぎずに「子どもの声を聴きながら、一緒につくっていけばいい」ということなのです。
(2025年6月収録)
写真=阿部 了
プロフィール
新渡戸文化学園 理事長放課後NPOアフタースクール/新渡戸文化学園
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