建築の論理が内側に入り込む、 内装の考え方が外側ににじみ出る ──どちらもありなんです
Insights ─未来のカタチ
INTERVIEW
未来へのヒントを探るシリーズ「insights─未来のカタチ」。第2回は、建物だけでなく、その場所での体験までを含めた建築デザインで知られる建築家の永山祐子さんをお招きし、建築と内装との新しい関係、未来に向けたサステナブルな建築などについて、乃村工藝社・原山麻子と語り合っていただきました。
リノベーションには、その道の知見が必要ですね
原山 乃村工藝社では、この3月から建築プロデュース部という部署を新設しました。その理由は大きく2つありまして、ひとつは、今、色々な都市開発で新しい建物がどんどんできている一方で、旧い建物を再生したいというサステナブルなニーズが広がっています。私たちは人の体験を起点とした内装・展示のインフィルを得意とし、建物のバリューアップをしてきたわけですが、建築の知識があればよりその価値を高めることができる。
もうひとつは、私たちは、遊休地活用のような事業化する前の企画構想から手掛ける仕事も多いのですが、建物そのものの建築をやらないことで、内装の段階になって現場に戻るまで、間が途切れてしまう。やはり構想を形にしていく一連の流れに関わっていきたいんです。
永山さんは建築家でいらっしゃるけど、ものすごく人に近いところまで一気通貫でおやりになって、最後まで見届けるスタイルですよね。
永山 そうですね。実は、私たちもリノベーションの仕事が多くなってきています。法規的なことがありますから、たぶんクライアントさんとしては、インテリアデザイナーには頼みにくい。建築家にお願いしたいということなんですけれど、古民家なんかはとても大変です。建物を構造的にどう補強、改造するか、その上で内装デザインをどうするのかとか。そういったことに慣れている大工さんや構造家がいないと、私たちが普通に建築基準法の構造ロジックで考えるとなかなか難しい。リノベーションは、1カ所強くすればいいわけではなく、全体のバランスなので、慣れている人の知見が必要です。
それから、近隣対策や行政協議なども細かく取り組んでいかないと、つくれるものの可能性がずいぶんと変わってくる。全体を見てくれる会社があるといいだろうなとは思います。
原山 当社でも古民家やリノベーションの事例は増えてきています。地元の古きよき文化や資産に新たな価値を加えて活性化させていく。とてもやりがいのあるお仕事です。
西伊豆の旧家を改装したオーベルジュ「LOQUAT 西伊豆」「LOQUAT Villa SUGURO」や、宮崎県日南市では古民家を宿泊施設に改装した「季楽 飫肥 合屋邸」、京都で90年以上前の小学校校舎を再生した「ザ・ホテル青龍 京都清水」のような案件も手掛けています。
町の文化とか、大切な歴史的な建造物を残していこうとするときに、町の工務店さんにはできないし、大手ゼネコンさんの仕事でもない。乃村工藝社がちょうどいいサイズ感なんじゃないかなと思います。また建物の改修のみならず、その建物の魅力を高めるコンテンツを企画したり、事業者をマッチングすることも行っています。
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建築でつくれるものと、内装で果たせるものとは違います
原山 私たちは、内装から建築に入っていこうとしていますけど、逆に永山さんは、建築から入って内装まで手掛けられることが多いですよね。
永山 はい。全部自分たちで手掛けられるようであればやりたいなと思いますけれど、キャパ的にできないことも結構あります。そうすると協力者を得ながらということになりますが、多分その逆もありますね。やはり建築でつくれるものと、内装で果たせるものは、ちょっと違うので。
でも、最近の案件では外側と内側をパッサリ切ることは、あまりしなくなってきましたね。建物の世界観をつくって、外側と内側とを融合させていく。
以前は、商業施設などは箱型で、ほとんど外が見えないような状況でしたけど、今はなるべくグリーンを取り入れてテラスをつくったりする。建築側の論理が内側に入るってこともあるし、インテリア側の考え方が外側ににじみ出していくみたいな、どちらのパターンもあるんじゃないかと思います。
原山 建築と内装のオーバーラップの必要性を、最近ますます感じています。従来の建築のプロセスでは、スタート時から具体的な内装計画まで含めて考えるケースは少なく、建築と内装が分断したプロセスが多いですから。
永山 「えっ、もったいない」とよく思わされるのは、箱をつくった私たちの想いとしては、こう使ってほしいと伝えてあるのですが、うまく伝わっていなくて、先方は先方で全然違うストーリーをつくって、私たちの想いとはまったく違う方向に変えられたりして。
原山 私も、以前あるミュージアムを担当していたときに、新築のビルに入るミュージアムだったんですけれど、ミュージアムの動線にどうしても無理があって、計画進行中にも関わらず、建物の設計変更をしていただいたことがあります。
別に建築家が悪いということではなくて、構想・計画の段階からコミュニケーションをとりながら、使われるイメージや人の動きを一緒に詰めていかないと無駄が出るなと思います。そういう意味でも、建築と内装インフィルの連携が今後ますます重要になると感じています。
コンセプトを伝える“つなぎ役”が大事なんです
原山 例えば、永山さんが設計されたJINSさんの「JINS PARK 前橋」。ショップとしての機能はもちろん、その空間での体験まであらかじめ全部計画された上で施設が建っていることが感じられて、すごく素敵だなと思います。
永山 アイウエアのショップなんですけれど、モノを売るだけではなく、体験も提供したい。開け放たれた店内が庭と一体化して、公園でピクニックをするように、訪れた人がお気に入りの場所を見つけて過ごせるようにと考えました。
パン屋さんを入れたんですけれど、イートインにしてしまうと有料エリアとそれ以外みたいな感じで空間を分けてしまうので、全部テイクアウトで、どこで食べてもいいようにして。パンを提供するオペレーションも考えて、それに合わせてショーケースやタグもつくりました。
そうやって中身に合わせながら丁寧につくっていくと、オープン後に思い描いた形で無理なく運営されますね。
原山 建築だけではなくて、プロジェクト全体を設計されているんですね。私たちの建築プロデュース部も考え方は同じで、ただ「設計に関与します」ではなくて、やはり重要なのは“つなぎ役”なんです。
建築家の先生や、その後の運営者に至るまで、施設を生み出すまでの一連の流れ──その全体をマネジメントする機能がないと、コンセプトがいい形で隅々にまで伝わっていかない。まさに、そこをやりましょうということなのです。誰かがビジョンをしっかりと提示して、ブレずに進めていくことが、ものすごく重要ですよね。
永山 そうです。そうしないと、本当に中途半端になってしまう。だから言葉を費やして分かってもらうように、協力者を得ながらやっているんですけどね。
誰かが諦めずに信じたものは、やはり大切にするべきなんです。途中で捨ててしまわずに、1回やってみないと分からないですから。
真剣にいいものをつくり、長く使うのが一番サステナブルです

原山 2025年の大阪・関西万博に向けて、パナソニックグループさんのパビリオン「ノモの国」で、永山さんが建築を、乃村工藝社が展示を担当していますが、プロジェクトの進め方を見ていても、ビジョンがブレずにそのまま貫かれています。
永山 「ノモの国」は子ども、特にα世代の子どもたちに向けたパビリオンです。2020ドバイ万博の日本館は、幾何学を使った構造体でもあるファサードで、システムが強い建築でした。
今回は、あまりシステムが見えない自由な形状をイメージしました。子どもたちのようにまだ固まっていない、いくらでも未来に向けて変化していくような形をイメージしました。そこで今回もファサード自体が構造でもあるというところはドバイ万博のときと同じですが、テーマである「循環∞」をイメージさせる三次元的に曲げたモチーフが寄せ集まって、全体を構成するような形にしました。一見、何の形か分からない、未来に向けてまだまだ変化していきそうな有機的な形状です。
原山 シャボン玉が風で動いているような建物ですよね。
永山 子どもたちが最初に来たときに、「わぁ!」と印象に残るような空間にしたいと思いました。
コンセプトを丁寧に伝えるのはさらにそこから展示に入っていって、ということになりますが、まずは記憶に残る体験を建築空間でつくり出したいと思っています。私自身も印象的な空間体験とセットで、そのとき見たもの全体を記憶していることがあります。万博自体は6カ月の期間限定ですが、そのときの記憶が子どもたちの中にずっと残ってほしいなと思います。
展示を担当される乃村工藝社チームの方々も、建築のテーマや考え方を引き継いでいきたいとおっしゃってくださり、一緒にワークショップをしたり、模型を見せ合いながら議論したりと、ずっとコミュニケーションを重ねてきました。
原山 今回は、建築と展示とで、かなり理想的な関係性ができていますよね。それにしても、これからの子どもたちの未来のことは、私たち、建築や空間のつくり手として、本当に真剣に考えないといけないことだと心から思っています。
建築はCO2排出量が多い業界ですから、それを削減するのは大きなテーマですし、冒頭にお話しした、既存の建物を永続的に活かしていくのもひとつの方法です。スクラップ・アンド・ビルドのあり方も、私たちは、いま一度、未来への視点に立ち返って考えていかなければなりませんよね。
永山 建物を設計するときに、こんな未来像がいいなということを考えながらつくります。でも実際、未来がどうなるか分からない。だからある程度余白を残したり、フレキシビリティのある建築を考えます。
私自身、さまざまな歴史を経た建物をリノベーションすることもありますが、例えばそこが何かの工場だったとしても、全く違う用途に転用するために読み替えてつくっていきますよね。魅力のある建物はそれがなんであれ残そうと思う人たちがいて、次の世代が全く新しい用途に読み替えてくれる。それがとても面白いと思うし、結局、真剣にいいものをつくって、誰かに残したいと思ってもらうのが一番サステナブルですね。
原山 私たちが現在の使い方はもちろん、未来の可能性を真剣に考えて、建物や空間をつくる。そして、未来の人たちがぜんぜん違うことを発想しても、その建物や空間は素敵だから、このまま活かしていこうよとつながっていく。そんなものづくりをしていきたいですね。今日は、ありがとうございました。
(2024年5月収録)
写真=©Kazumi kiuchi
プロフィール
建築家
永山祐子さん
乃村工藝社
取締役上席執行役員原山麻子
Media乃村工藝社のメディア
- 乃村工藝社SCENES
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