乃村工藝社 SCENES

音と光と風が抜ける[ライブハウス] おとなが語らい音楽があふれ出す街に

2024.12.04
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planning & design ─街のシンボルをつくろう

BLUE NOTE PLACE

東京・渋谷区

街は時代の生きものだ。時の流れとともに、人々が街に求めるものが遷り変わり、
街もまたその立ち位置を変化させながら、提供する価値を見直していく。
いったいこの街はどこへ向かって歩むべきなのか。
未来を考え抜き、目指す姿のシンボルをつくった街がある。

 

「生活者の街」へとコンセプトを転換

久しぶりに恵比寿ガーデンプレイスを訪れた人は、ちょっとした驚きを感じるに違いない。一見すると、大屋根の広場を囲むようにカフェ、レストラン、ショップ、ホテル、映画館、美術館、オフィスビルなどが配置された風景は変わらないものの、街としての中身が大きく変化しているからだ。

その象徴が、JR恵比寿駅側の入り口に立つレンガ造りのクラシカルな建物。以前はビアレストランとして営業していたが、2022年末からBLUE NOTE PLACE(ブルーノート・プレイス)が新たに営業を開始した。建物に沿って広場に回り込むと、大きなアーチ形の窓が連なり、店内のライブ演奏の様子が見える。開け放たれた窓から聞こえてくる音楽に、広場を行き交う人々が立ち止まって聴き入る光景は、おとなの街の文化を感じさせる。
恵比寿ガーデンプレイスが開業したのは1994年。2024年には30周年を迎える。この間、競合施設が増えたことでエリア競争が激化。地元・恵比寿の発展による周辺環境の変化などもあり、2019年の25周年を前に、施設全体のコンセプト見直し作業が始まっていた。

当時、サッポロ不動産開発で企画を担当した岸裕介さん(現・サッポロビール 新規事業開拓部長)は、恵比寿ガーデンプレイス単体の視点から、恵比寿という街全体の視点へと転換が必要だと感じていた。

「30年前は、日本に初進出の外資系ラグジュアリーホテルが素晴らしい、入っている百貨店さんは元気、映画もしっかり見に来ていただける。そんな時代です。だから人気のコンテンツを1カ所に集めて、街として完結させることに意味がありました。しかし、競合する施設がどんどんできてくる。コンテンツの種類もこれだけ増えてくると、施設単体で戦うことの意味はないんですね。あらためて恵比寿ガーデンプレイスだけが持つ価値を考えてみると、やはり恵比寿という街の生活者ではないかと思いました」

恵比寿ガーデンプレイスは、センター広場をはじめとして敷地の60%が公開空地という、ゆとりある設計。同じ敷地内にマンション2棟があるほか、周辺の白金や広尾、中目黒にかけて住宅地が広がり、生活エリアの色彩が強い。いわば都市リゾートのような、青空が広がる高台の“山の手生活”というイメージは、競合する施設にはない特徴になっている。

「それで生活者視点で発想を広げ、いま足りないコンテンツは何かを考えていきました。経済価値だけではなく、社会的な価値を持つもの。やはり音楽だとか、情操教育的なものを入れたいなと。そんな議論の中から、コロナ禍もあって撤退したビヤステーション恵比寿の建物に、次のテナント候補としてブルーノートさんの名前が挙がってきました」(岸さん)

とはいえ、最初からブルーノートに絞ったわけではない。当時、サッポロ不動産開発で岸さんと一緒に企画づくりをした杉田直彦さん(現・サッポロビール 外食営業本部 外食統括部 FBS・FKG統括部 東日本グループリーダー)は、さまざまな選択肢を検討したという。

「空いた建物は1階と2階のフロアがあって、床面積は合計約400坪。大きな宴会ができるような造りでした。ですから、上下分けて別々のテナントにしようとか、物販がいいのか食がいいのか、ウェルネス的な話もありました。ただ、私たちとしては、恵比寿ガーデンプレイスの入り口にある建物ですから、やはりシンボリックな存在にしたい。地域とのつながりを意識したらエンタメとかカルチャーといったものがふさわしいよね、と。それで、候補をブルーノートさんに絞り込みアプローチを始めました」

 

ニューオーリンズのような街にしよう

ブルーノートの誘致について、まず相談を受けたのは乃村工藝社A.N.D.のエグゼクティブクリエイティブディレクター、小坂竜さんだった。小坂さんはデザイナーとして、青山にあるブルーノート東京のバーや、日本橋浜町のHAMACHO DINING&BAR SESSiONなど、ブルーノート関係の施設をいくつも手掛けてきた。その上、自身でもバンドを組むほどの音楽好き。貸し切りのイベントで、ブルーノート東京のステージに上がったこともある。

しかし、初めて現地を見に来た小坂さんは、建物がこのままでは、ブルーノートに出店してもらうのは無理だと言い切る。

「建物そのものは、ちょっと古い感じで雰囲気はいいですが、1階と2階とがはっきり分かれている。ブルーノートさんが丸ごと1棟使うとして、1階でライブ演奏をしても、2階には聞こえない。お店として成り立たないんです。ですから、2階の床に穴を開けて、上下のつながりがある空間に改装しましょう。それをやらせていただけるのであれば、ブルーノートさんをご紹介しますし、プランニングもつくります。そうお伝えしました」

後日、小坂さんの紹介で、ブルーノート・ジャパン社長の伊藤洋翔(ようすけ)さんと、同・取締役店舗開発部マネージャーの松内孝憲さんが現地を訪れる。その時点で、2階の床を抜くかどうかの結論は出ていなかったが、小坂さんのプランを聞き、それが実現できれば魅力的な店舗になると伊藤さんは思ったという。

「ライブハウスって大体が地下なので、こんな1階で音を出せる場所は日本ではそんなにないんです。音が出せるのは大きいなと思いましたね。これまで出店してきたお店もそうですけど、単にきれいなお店や格好いいレストランをやりたいわけではない。音楽がひとつの文化として根付いていく街をつくりたい。そういった理想に近づけるかなと思いました」

松内さんも、街として音楽を積極的に取り入れたいという姿勢に魅力を感じた。

「施設さんのほうから音を出していいとおっしゃっていただけることがあんまりなくて。私たちとしては、願ったりかなったりのお話でした。建物の佇まいがすごくいいので、ここでやれたら楽しいだろうなと想像できました」

その場で構想を語り合いながら、関係者の全員が頭に思い描いたのは、閉じた空間のライブハウスではなく、建物から音楽があふれ出てくるような街の姿だった。

「アメリカのニューオーリンズのように、歩いているとあちこちから音楽が流れてくるような街です。現在のニューオーリンズは、行ってみると歴史的なジャズクラブなども残ってる一方で、ロック系のバーなども多く、かなり雑多な街なんですけど(笑)。旧きよきニューオーリンズのイメージですね」(松内さん)

「街角から演奏をしている姿が見えて、音楽が聴ける街って気持ちいいじゃないですか。でも、そういう商業施設は日本にはないんです。みんなで話しながらニューオーリンズの名前が出て、それが関係者に共通のゴールになっていきました」(小坂さん)


写真=©Satoshi Nagare

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