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複雑な空間もプログラミングで実現 CO2削減の環境対策も

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BIMでの設計で実際に出来上がった空間「RESET SPACE_2」
BIMでの設計で実際に出来上がった空間「RESET SPACE_2」

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BIM──Building Information Modeling

クリエイティブ、制作ともに進化させる最新ツール

複雑な空間もプログラミングで実現
CO2削減の環境対策も

BIMでの設計画像:BIMの画像には、空間のイメージだけでなく、インテリアや人を配置して、実際の利用シーンを見せられる


空間づくりを支える数々のテクノロジーの中で、BIM(Building Information Modeling)は今、最も注目されているもののひとつだ。日々、進化を続けるBIMによって、空間のデザイン・設計から現場の施工まで、仕事の進め方が大きく変わろうとしている。同時に、顧客にとっては、空間のイメージが具体的につかみやすく、さまざまな要望に対してスピーディでフレキシブルな対応が可能になる。その上、環境負荷の低減も期待できる。

 乃村工藝社では、BIMへの取り組みを2017年にスタート。BIM活用の社内推進を続けながら、着実に実績を重ねてきた。そもそもBIMとはどういうものなのか、それによって空間づくりはどう変わるのか、将来的にはどんな活用方法が考えられるのか。乃村工藝社でBIMの社内推進に取り組んできた妙中将隆(クリエイティブ本部 デザインデベロップセンター BIMルーム ルームチーフ)と、空間づくりの現場で実際にBIMの活用方法を探ってきた仁田坂拓人(営業推進本部 第四事業部 プロダクトディレクション2部 部長)に、BIMの現在地を聞いた。

 

[BIM]と[3D CAD]とは、似て非なるもの

 乃村工藝社が本格的にBIMを導入した最初の事例は、東京スカイツリーの近くで2020年に開業した東京ミズマチだ。墨田区立隅田公園と北十間川の水辺とを合わせて、面で商業施設を開発することから、多くの関係者、関係機関のコンセンサスを得る必要があるプロジェクトだった。そして、その最初の経験が非常に大きかったと妙中はいう。
 

「当時、建設・建築業界ではBIMが浸透し始めていました。しかし、私たちの業界ではまだほとんど使われていない。それで、BIMを初めて東京ミズマチで導入してみたところ、施主さんとの打ち合わせや、行政機関との協議など、コミュニケーションがとてもスムーズにいきました。VRで完成イメージをお見せできますから、施設の中を自由に歩き回って、さまざまなアングルから検討する。窓の位置や大きさを変えて、景色の見え方を確認する。照明を変化させて雰囲気を見るといったことが簡単です。

関係者の理解度も、プロジェクトのスピード感もすごく高まりました。それを機に、社内でBIMの利用が加速しました」


一方、仁田坂は、お客さまとのコミュニケーションだけでなく、BIMの導入によって、仕事そのもののフローが大きく変化したという。

「今までのやり方ですと、まず2次元の平面図や展開図がつくられ、それをもとにアングルや光を指定して3次元パースを描いてもらう。乃村工藝社ではBIMにAutodesk® Revit®(レビット)というソフトウェアを使用していますが、これですとコンピュータ上に最初から3次元の空間が立ち上がるんです。お客さまの理解が早いですし、例えば、窓の位置を変えたいといわれれば、その場で動かしてお見せすることができます。しかも、動かした瞬間に、変更がすべての図面に反映される。

以前なら、ご要望を持ち帰って、平面図、展開図と順に修正し、3次元パースを描き直して1週間後に再びお持ちする、という感じでした。お客さまとの意思疎通はもちろん、“戻り”が少なくなりますので、合意形成が早いですね」

1つの修正が、リアルタイムですべての図面に反映される点がBIMの強みであり、同じように3Dイメージが見られても、そこが3D CADとは根本的に違うところだ。

「両者で持っている情報が全く違うんです。3D CADには、形状の情報しか入っていない。例えば、図面には床、柱、扉などが描かれますけれど、3D CADはその形状だけをデータ化していて、床なのか、柱や扉なのかは認識していません。それに対してBIMは、床、柱、扉の情報としてデータを持っている。なので、柱の本数や壁の面積を尋ねると、瞬時に答えが返ってきます。ですから、BIMは単なる3次元の形状データではなくて、設計図はもちろん、使う材料や設備など、その空間を構成するあらゆる要素を入れ込んだデータベースなのですね。そのデータベースから、3Dイメージを生成して見せているわけです」(妙中)

 

デザインの自由度が飛躍的に向上

では、実際のプロジェクトにおいて、BIMはどのような使われ方をしているのだろうか。

「デザイン設計と制作の分野とで、それぞれの役立て方があるのですが、まずデザインの分野では“可視化”が大きいですね。複雑な形状の空間を実現しようとすると、やはり2次元の図面だけでは表現し切れないのです。

例えば、大きなホールで、頭上の空間に150羽のハトが舞っている、というディスプレイをお請けしたことがあります。天井からハトを1羽ずつ吊るすんですけれど、立体空間で150羽の位置決めは、2次元の図面では恐ろしく手間がかかる。修正作業も大変です。やはりプログラムの力を借りて3Dイメージをつくり、実際の見え方を確認しながら進めていくほうが現実的です。しかも、デザインを何案かつくるとなると、手作業では時間的、体力的にとても追いつかない。BIMであれば、ハトの配置密度や飛んでいくカーブなどのパラメータをいじることで、別のデザインをつくれます」(妙中)

 さらに制作面でも“可視化”の威力は大きい。ある現場での施工の効率化にもBIMが大きく寄与したと、仁田坂はいう。

「天井からLEDを使った光のオブジェを吊り下げるという現場を担当しました。天井裏にはダクトや配線が走っているのですが、オブジェを吊る際にそれらと干渉してはいけない。BIMが登場する前は、ダクト、配線、構造の梁や鉄骨、それぞれの図面を全部重ね合わせて、手作業でオブジェの取付け金具の位置を探し出していました。現場では、先に施工されてしまったダクトや配線を避けるために、迂回する支柱をつくったり、変則的な取付け方法を強いられることもあります。

でも、BIMであれば、それぞれが干渉しないように最初から適正配置ができますから、現場で悩む必要がなくなりました。後々の電球交換作業がスムーズにいくように、点検用のパネルの開き方にもあらかじめ配慮できます」

 

BIM活用でCO2排出量を削減

BIMの活用は、さらに環境負荷の軽減にまで踏み込んでいる。仁田坂が続ける。

「ある海外ブランドから店づくりを依頼されたのですが、そこではできるだけBIMを取り入れました。フロアが何層もある上、工期が短かったので、まずAutodesk® Navisworks®(ナビスワークス)というBIMソフトを使い工程表を“可視化”し、お客さまと共有しました。3Dの映像で、壁や床ができて、天井が張られて什器が搬入されるといった、フロアごとの工事プロセスがひと目で分かる。膨大な書類の工程表よりも、簡単に確認ができます。

店内のデザイン・設計にもBIMを使い、データをもとに施工はプレカットで行いました。従来は規格が決まっている材料を搬入し、現場でカットして合わせていくのですが、BIMから必要な材料の正確なサイズが分かるので、あらかじめ工場でカットしたものを搬入するんです。普通はプレカットしない石こうボードまでカット済みで搬入しました。そして、搬入した材料を現場でパズルのように組み立てていく。たまに、どこにはまるピースなのか分からなくなって、探すより切ったほうが早い!  と職人さんが現場でカットしちゃう場面もありましたけど(笑)。現場の慣れの問題ですね。

それで、プレカットを使わないで進めていたフロアがあったので、従来型の施工とプレカットの施工とでどれくらい違うのか比較データが取れました。まず、作業効率で見ると、石こうボードについては、単位時間当たりに職人さんが作業できる量が、プレカット方式は従来方式の約1.8倍になりました。さらにプレカット方式ですと、現場でカットしない分だけ廃棄物が少ない。廃棄物は、石こうボードで約15%減、金属下地では約30%減という結果になっています。

プレカット方式は、廃棄物の減少に加えて、もともとの資材搬入量が減りますから、輸送による環境負荷も小さくなる。結局、この現場では、プレカット方式と従来方式とが混在しましたが、プロジェクトトータルで、CO2排出量を13%ほど減らすことができました。今はどこの企業も、カーボンニュートラルには熱心に取り組んでいますから、そこにBIMが貢献できるのは、お客さまにとってメリットが大きいと思います」

また、BIMによって、デザイン面、制作面が連動して効率化できる案件もある。

「全国展開をしている、あるブランドのショップをやらせていただいています。店舗が入る建物の形態や床面積は場所によってさまざまなのですが、ブランドとしての世界観は統一しなければならない。

それで、例えば店内装飾のボードや商品陳列の什器など、世界観をつくるために必要な要素をあらかじめBIMにすべて登録してあります。それらを駆使して、デザイナーはプランを何案もつくり分けることができますし、制作チームは効率的に作業を進めることができるんです」(妙中)

 

空間をつくった後もBIMが活躍

日々、進化し続けるBIMだが、制作の効率化はもちろん、クリエイティビティを拡大する方向で発展させたいと妙中はいう。

「BIMはデータベースですから、新たにデータを加えることで、やれることが増えていきます。例えば照明器具なら、その器具の光源スペックだけでなく、配光データも入れることで、よりリアルな3Dイメージがつくれます。部屋の壁やガラスに照明が映り込む。その映り込みもBIMで確認できますから、デザインの要素として取り入れることが可能です。
また、企業が数多く出展するような展示会では、担当するブースだけでなく、会場全体のレイアウトをデータ化しておく。そうすることで、担当ブースのロゴを、会場のどこからでも見やすいように配置することができます。

あるいは古い建物を改修したり、リニューアルする際、すでに建築の図面がなくなっていることがあります。あっても、現状と食い違っていることも多い。そんな時は、レーザースキャンで建物の3Dデータを取り、BIMに入れればいいんです。現在のレーザースキャンは10mで誤差4mm程度ですから十分に使えます。細かな造作の凹凸も拾えるので、メジャーを使って手で測るよりも正確だし、使い勝手がいい。文化財の保存などでも役に立ちますね。

営業的な面でいうと、見積もりだけではなく、入れるデータを工夫することで、営業担当者やプランナーが、施設をつくった際の売上や収益性のシミュレーションも併せて、お客さまにプランをご提案するということも可能になると考えています」

BIMが役立つのは、空間づくりだけではない。例えば、“デジタルツイン”という現実空間とそっくり同じ、双子の3次元データを構築することで、さまざまな問題解決のアプローチも期待されている。集客施設における人流のさまざまなパターンのシミュレーションをデジタルツイン上で実施し、最良の選択肢を現実の施設で取り入れることができるといわれている。

そういった今まで以上の付加価値を生み出す未来を目指して、妙中と仁田坂は、さらなるBIM活用の浸透を進めていくという。
 

(2023年12月取材。記事の肩書は取材時のものです)

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