海洋プラスチックごみに「新たな価値」を アート志向のリサイクルが人々を魅了する素材を生む
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REMARE
三重・鳥羽市
海洋プラスチックごみに「新たな価値」を
アート志向のリサイクルが人々を魅了する素材を生む

三重県鳥羽市は、美しいリアス海岸が続く伊勢志摩国立公園の一角にあり、日本有数の牡蠣の養殖地として知られている。2021年、REMARE(リマーレ)は鳥羽湾からほど近い場所で設立された。リマーレが取り組むのは、海洋プラスチックごみを、アート性の高い素材にリサイクルすること。まだ小さな会社ながら、その革新性とレベルの高さは、「海洋プラスチックの再資源化プラント開発」で、2023グッドデザイン賞を受賞したほどだ。
リマーレは、なぜ、このような取り組みを始めたのか、将来的にはどんなビジョンを描いているのか。リマーレ社長の間瀬雅介さん、創業時からリマーレを支えてきた地元の水産会社、伊勢志摩冷凍社長の石川隆将さんに、リマーレの製品に着目し、活用シーンを探ってきた乃村工藝社ソーシャルグッド戦略部長の後藤慶久を交えて語り合っていただいた。

船乗りだったからこそ、この仕事を始めました
間瀬 僕は、もともとは航海士と機関士の資格を持っていて、南極海へ行く生物調査船に乗 っていたんです。フィリピン沖を通過すると、見渡す限りの海洋ごみが、小笠原やハワイのほうに帯状に続いている。それで、生物の調査よりも、こちらをなんとかしたいなと思ったんです。
海洋プラスチックごみのリサイクルは、海辺に工場をつくって、地産地消でないと採算が合わないことは分かっていましたし、地元の漁業関係者の協力も不可欠です。でも、地元の理解が得られない。候補地を探してまず石垣島で断られ、それから和歌山県を紀伊半島に沿って南下し、串本を回って鳥羽まで北上したら急に話が通じたんです(笑)。
石川 それは、鳥羽が養殖漁業の街だからですね。獲りに行く漁業は、漁師さん同士がライバルだし、少し閉鎖的な気質もある。でも、養殖の漁師さんたちは、昔から赤潮の問題なんかがあって、海の環境に対する意識が強い。養殖はプラスチックの漁具も多いですから。
私自身はサラリーマンからのUターン組なのですが、この世界に入ってみると、漁師さんの高齢化や後継者不足、魚価の低迷など問題は山積み。海洋ごみもなんとかしたいけど、みんな余力がない。廃棄された漁具が野積みされていたりします。そんなところに、「海洋ごみは資源だ」って言ってくれる若者が現れたわけで、すぐに応援することにしました。

間瀬 石川さんとは30分くらいお話ししただけで、リサイクル工場をつくる場所として空いていた水産加工場を貸していただきました。しかも、最初の1年間は家賃、光熱費ともに全部タダ。漁業関係者、行政、大学の研究者などとのネットワークもつないでくださって、スタートが切れたんです。
それでも、実際に事業として軌道に乗せるのは非常に難しい。船に乗っていたときに、海洋プラスチックごみを拾って、いろいろと実験していたんです。ですから、加工技術そのものはそんなに難しくはない。でも、形状変更はできても、採算ベースには乗らない。1 年くらい苦戦している間に、乃村工藝社の後藤さんと知り合いました。
後藤 私は当時、外資系ブランドのPOPUPなど、いわゆるイベント担当だったのですが、コロナ禍で人を集めるイベントはすべて中止になりました。それを契機に取り組んだのが「空間のサステナビリティ化」です。勉強のために、あちこちの環境系ウェビナーを覗いていたんですね。そこにリマーレさんがいて、画面越しに見せてくれた製品が美しくて。
間瀬 そのときにお見せしたのは30cm角の板材だったのですが、たくさんつくってはいたものの、売り先がない。プロダクトアウトの典型な上に、ものがデザイン・アート系なので、これを欲しがる人をどうやって探せばいいのか、まったく見えませんでした。
後藤 後日、リアルで間瀬さんとお会いして話を伺うと、起業の経緯や、環境だけでなく地域貢献にもなるんだとか、いろいろな人たちが力を合わせて取り組んでいる、といったことが見えてきて、とりあえずファンになっちゃったんですね。それで、会社内で話して歩くうちに、使ってくれる事例がいくつか出始めて、徐々に認知度が上がっていきました。
手づくり機械で、なんでも挑戦する「ラボ」なんです

間瀬 後藤さんのおかげで、什器に使えるのではないかとか、使い道が少しずつ見えてきて、発想が膨らんでいきました。板材は、砕いた廃棄プラスチックの色を利用して、アートを描くようにデザインを考え、熱プレスで成型するのですが、素材や配色、プレスの方法を工夫することで、いろいろ製品のつくり分けができるようになるんです。プレス成型機を改良することで、大きなサイズにも対応できるようになりました。
でも、プレス成型機って普通に買ったら高い。新品で1億円くらい、中古でも4000万円する。とても買えないので、ヒーター部分だけは自分で低コストの設計をして専門業者にオーダーし、制御関係はすべて自作。結局、150万円でつくりました。性能は1億円のものに遜色ないですよ。しかも、安いから挑戦ができる。工業製品をつくるメーカーさんは規格や条件が厳しいんです。再生材は異物が混入しやすいので、粉砕した材料にクギなんかが混じって、プレス面が傷つくとラインが止まってしまう。でも、僕たちは設備の修理が自分でやれるから、どんどん挑戦できる。一時期は工場で深夜まで試作して、樹脂ごとの温度や加熱時間、フレークサイズのデータが蓄積できました。それが、いま製品開発にものすごく役立っています。
後藤 私たちも大手の素材メーカーさんに、こういうものがつくれませんかと相談することがあるのですが、まとまった量が求められます。一点ものの空間をつくる私たちが必要な量とは見合っていないんですね。
でも、間瀬さんのように「いいですよ、やってみましょうか」と言ってもらえると、すごく心強い。小さく回せるがゆえに、一歩踏み出すことができるんです。いまの社会と合っていますよね。
先日も、人工芝をつぶして板にしてみて、とお願いしました。人工芝って複合素材で、ゴムも入っているので普通は受けてくれない。でも、間瀬さんは、「1回つぶしてみましょう。駄目だったら掃除して、機械が壊れたら整備すればいいですから」と試してくださる。そういった実験の結果を見て、お客さまと改良点を話し合ったりできる。すごく頼もしい存在なんです。
間瀬 言うなれば、うちは「ラボ」ですよね。人工芝もそうですけど、産業ごとに、それぞれ廃棄されるプラスチックがある。それが個性になり、その企業特有の模様ができたりするわけです。資源循環なんだけど、「面白い」が先にくる。
例えばスキー靴は3年ごとにモデルチェンジされるので大量に廃棄が出ます。アルミ金具が付いて、内側には繊維が貼ってある複合材なのですが、アルミを除去してから砕き、プレスしてみる。配合率を変えてテストしていくと、ちゃんと板材になるレシピが分かってきます。

後藤 プラスチックを使っていない産業はないし、製造業でなくても、例えば、私たちでもコロナ禍の飛沫防止アクリル板とか、梱包材とか、必ず樹脂はからんでくる。お客さまにとっても、どこから来たかよく分からない環境配慮建材を提案されるより、「御社の廃棄プラスチックが再生されてこの板になりました」というほうが、納得感ありますよね。
間瀬 これは、廃棄する企業の側にも大きなメリットがあるんです。これまでプラスチックを捨てる際にかかっていた産廃費用が削減される上に、僕らは、ほぼタダで原料を手に入れることができる。とても利益率が高い事業モデルになりますね。
でも、僕らの最終目標は廃棄プラスチックの油化事業です。プラスチックを元の石油に戻すわけですけれど、いまパートナー企業と取り組んでいます。技術的にはすでに解決されていて、難しくはない。問題は採算性。自然エネルギーを使ってなんとか実現したいです。
後藤 リマーレさんは、例えば廃棄プラスチックをフレークのまま販売するルートを確立したり、製造業から出る複合プラスチック材の受け入れをしたり、さまざまな形で社会性と事業性の両輪を回しているのが、すごいと思います。
私たちは空間プロデュース事業という文脈で、多様なプランナーやデザイナーたちと一緒にこういった建材を活かして、デザイン性の高い作品にしたり、素材循環が生むコミュニケーションをつくり出していきたいと思います。
地域に「未来の豊かさ」を吹き込みたい

間瀬 やはり最終的には、鳥羽市や志摩市で出る一般ごみを再生し、ものに変えて、東京などの大都会に販売する。お金の流れが向こうからこちらになる仕組みをデザインしたい。それには、地元の人たちの協力が必要なんです。
例えば、ビーチクリーンのイベントには、遠くからも人が参加してくれます。しかし、集めたごみがどうなるのか、その先は参加者には見えない。でも、板材に再生して、街のカフェのテーブルにすると、コーヒーを飲む以外の訪れる動機が生まれます。「美食地政学」の考え方で、何か1つ実証実験をやりたいんです。
石川 美食って、食の美味しさだけを追求していたら、それは持続できません。生態系や環境保全、気候変動のことなども視野に入れて、その土地ごとに美味しい食べものを考えていく。それが「美食地政学」です。私たちも大学と一緒にその研究をしていますけれど、結局サプライチェーンを変えましょうという話なんですね。伊勢志摩周辺でも、気候変動で、獲れる魚種が大きく変わってきて、見たことのない南方の魚が揚がってくる。
廃プラもですけど、要は未利用の資源をどうやってサプライチェーンに乗せていくのか、消費者の意識や行動を変えるには、どうすればいいのか、市民、事業者、研究者、行政などみんなで考えていこうということなんです。その意味で、間瀬さんのアート作品も行動変容のきっかけになり得ると思います。当面のゴールはごみの削減でも、そこを入り口にして私たち市民の意識を変えていく。地域ごとに新しい豊かさをつくっていくときなのでしょうね。

(2023年12月取材。記事の肩書は取材時のものです)
写真=©Kenta Yoshizawa
プロフィール
REMARE(リマーレ)
社長間瀬雅介さん
伊勢志摩冷凍
社長石川隆将さん
乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 未来創造研究所 ソーシャルグッド戦略部 部長後藤慶久
Media乃村工藝社のメディア
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