意思をカタチにまとめる「裏方力」

企業ブランディングとプロモーションを専門にしております、菅谷です。
大きなプロジェクトでは、関わる人数も多く、プロジェクトを立ち上げた上層部の考えがそのまま現場に共有されないまま進むこともあります。
その結果、「プロジェクトが何を目指すものなのか」が、見えにくいままに始まってしまうことがあります。気づけば、当初描いていた姿と違う方向に進んでいる場面も珍しくありません。
そうした状況で求められるのが、「裏方力」です。
プロジェクトの裏側で起きていたこと
ある企業で、大切な賓客を迎える空間づくりに携わったときのお話です。
当初求められていたのは、素材や意匠などを「会社の品格を伝えつつ、賓客をもてなすに相応しく」こだわった設えにすることでした。企画を立ち上げた上層部には、壁の素材や細部の設えに至るまで、ある程度のイメージがありました。
ところが、いざ具体的な構想のための会議を開くと、多数のメンバーによる解釈が重なり、当初のイメージとは離れたものになっていったのです。それは「できる範囲で無難なもの」になりつつあり、かつ決定には至らないという状況でした。
どうして、そのようなことになってしまうのでしょうか。
理想的には、「なぜこの空間をつくるのか」を起点にコンセプトを固めていくという流れになるでしょう。しかし、何を優先するかの判断基準が共有されていなければ、
「イメージはそうなのだろうけど、予算が厳しい」
「素材や意匠といったイメージを実現するのに、時間が厳しい」
といった、現場的な制約を軸にして考えてしまうのです。こういった調整は増えるほど、当初の目的はぼやけていきます。
今回のプロジェクトも同様でした。優先すべき基準が整理されていないため、案自体は出るものの、解釈によってコンセプトは散り散りに。さらに「○○は厳しい」といった制約の中で、多数の意見と制約が詰まった幕の内弁当のようになっていったのです。
「意見を整理する」という裏方の仕事
私たちが参画して、はじめに行ったのはデザイン提案ではありませんでした。着手したのは、散在していた意見の整理です。
立場や役職をいったん脇に置き、上層部を含む参加メンバー一人ひとりに「このプロジェクトで何を実現したいのか」を率直に言葉にしてもらいました。立場に縛られない対話を設けられるのは、外部の立場だからこそ可能な役割でもあります。
そこから見えた意見の共通点をもとに、「本当に大切にすべき軸」を整理し、言語化していきました。
軸が明確になると、「ここはブレさせてはいけない」ポイントが揃います。この場合は、当初掲げられていた「会社の品格を伝えつつ、賓客をもてなすに相応しく」という考えを軸に、企画者のイメージである壁の素材や細部の設えといったディテールを維持するという方向性です。
素材や意匠の検討も、「この軸に沿っているか」という観点で進み、プロジェクトは共通の基準をもって前に進むようになったのです。その後、施設の完成まで判断軸がブレることはありませんでした。
関係者の多いプロジェクトほど、全体の共通認識を作るための裏方の役割が重要となります。
今回取り上げたプロジェクトでも、一時は無難なショールーム的なものが検討されました。しかし、上層部を含めて共通の基準ができた結果、最終的には「賓客を迎えるためのものに相応な、自社の品格や普遍的な世界観を大事にしたい」というこだわりを実現するため、予算や期間は再考されるに至りました。
それは、関係者の誰もが心から納得する、素晴らしい迎賓施設として結実したのです。
「裏方力」とは、人の間に立って混在する意見を整理し、「このプロジェクトで何を大事にするのか」を明確にする力です。
もしあなたが大きな仕事に向き合うとき、この「裏方力」の話が、ひとつのヒントになれば幸いです。