かつての杜のにぎわいを地域の人たちと創出する。
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村田守広さん竹駒神社
宮司
高橋健太さん七十七銀行
(七十七デジタルソリューションズ 出向)
高澤直樹さん七十七銀行 岩沼支店 兼 岩沼西支店
リーダー
坂爪研一さん乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第二統括部 リーシングリレーション部 プロデューサー
吉田圭助さん乃村工藝社
営業推進本部 東北支店 営業部 主任
城土健作さん乃村工藝社
クリエイティブ本部 第二デザインセンター デザイン1部 城土ルーム ルームチーフ デザイナー
sustainability ─ 時代を超えて人が集う[神社]
竹駒神社[竹駒の杜 CAFE 一粒万倍]
宮城・岩沼市
仙台駅から東北本線で南へ約20分。豊かな田園地帯が広がる岩沼市に竹駒神社はある。平安時代に創建
されたこの神社は、全国でも有数の存在。古来より日本三稲荷のひとつに数えられ、地域の氏神様として広く
尊崇を集めてきた。しかし、時代の遷り変わりとともに、参拝者の数が漸減。地域活性化の核とすべく、地元の人々が協力して境内のにぎわいを取り戻すプロジェクトに挑戦した。
平安時代から続く稲作の神様

竹駒神社が創建されたのは承和9年(西暦842年)のこと。以来、1200年近い歴史を持つ竹駒神社は、農業の神様を祀るために創建されたものだと宮司の村田守広さんはいう。
「創建したのは『百人一首』にも登場する小野篁(おののたかむら)です。遣隋使として知られる小野妹子の曾孫で、朝廷に仕える官吏の一族です。陸奥守として陸奥国府に赴任した際に、竹駒神社を創建されました。当時、朝廷は、日本を統一していくための出先機関として、九州には熊襲をにらむ大宰府、東北には蝦夷に対抗する多賀城を置いていました。
多賀城は、軍事的な拠点というだけではなく、行政や医療、教育といったかなり大掛かりな統治機構でもありました。
陸奥守として、多賀城に赴任した小野篁は、民情を安定させるためには経済力が必要だと考えたんですね。それで、土木とか医療といった渡来人の技術者集団を連れてきたんです。その中に稲作技術もあった。すでに日本の西のほうには大陸伝来の稲作が広まっていましたが、東北はかなり遅れていましたから、稲作技術の普及を重視したのだと思います。
それで、創建した竹駒神社には、あえてお稲荷さんを持ってきた。普通は武運の神様である八幡神を祀ることが多いのですが、農業の神様である稲荷神にしたんです。その後、竹駒神社は奥州藤原氏、伊達藩などの庇護を受けて、崇敬者が全国に広がるまでに成長。最盛期には、御分霊社は全国に300を数えました。私の若い頃には初詣、初午、秋祭りと、季節ごとに全国から観光バスを連ねて団体でお参りにいらしたほどです。金華山黄金山神社や鹽竈神社の参拝と温泉などを組み合わせた参拝旅行になっていたんですね」
しかし、そうした団体での参拝は、徐々に姿を消していった。
神社の活性化は、地域の活性化

村田さんは、宮司になって今年で8年目。世代交代で崇敬者の団体参拝が減っていくなか、かつてのにぎわいを取り戻そうと、まずは境内の整備から手を着けたという。
「社殿の前の敷石を透水性のものに替えたり、唐門の横で参拝者がちょっと休めるようにしたり、トイレも新しくしました。“たけこま市場”という、地元物産の売店もつくりました。境内には結婚式場に使用している参集殿という大きな建物がありますが、次はここにちょっとしたカフェ機能などを入れて、集客施設にできないかと考えていました」
神社の活性化について、宮司の相談相手を務めたのが地元金融機関の七十七銀行だった。当時、同行の地域開発部で乃村工藝社を担当していた高橋健太さんはいう。
「入り口は参集殿をどうにかしたいというお話からでした。ただ、宮司さんと対話をするうちに、地域の課題ですとか、竹駒神社さん自身の課題にテーマは広がっていきました。竹駒神社さんは氏神様として、岩沼地域はもちろん、宮城県にとって非常に重要な神社さんです。歴史の重みもある。独自の新しいことをやりたい一方で、ただ斬新さを狙うのではなく、地域に根ざし、地域に愛される神社にしたい。そのためには、どんな形にすればいいのかを一緒に考えさせていただきました」
途中で高橋さんから担当を引き継いだ岩沼支店の高澤直樹さんは、地元の氏神様の活性化プロジェクトだからこそ、地元企業、地元の人々の協力が不可欠だと思ったという。
「やはりこの町は、特に平日なんかは人通りが決して多くはないんです。竹駒神社さんは岩沼市の象徴ですから、そこが盛り上がれば、この町のにぎわい、活性化にもつながるとずっと思っていました。でも、参拝に来られる方がいても、そのまますぐに帰られてしまう。滞在時間が延びるとか、リピーターが増えることが大事なんです。銀行として、地元の色々な事業者さんとお付き合いがありますから、そういったネットワークを活かしてさまざまな方に参加していただき、地元の人たちの手で、地元の活性化をつくり出したい。それが地元銀行ならではの役割だと考えていました」
宮司の村田さんは、七十七銀行のコンサルティング部門の協力を得て、広くプランを募ることにする。数社から提案があった中で、最も心に響いたのは乃村工藝社のプランだった。
「そのプランは、参集殿ではなくて、境内の楼門の近くで新たにカフェを設置するという案でした。ガラス張りの建物にして、境内の樹々を眺めながらゆっくりと飲食ができる。外観は、まるで杜にとけ込んだようなカフェ。参集殿とは違う場所だけど、これこそ私が望んでいた姿だなと思いました」
地元の協力会社を探し出す

提案書をまとめた乃村工藝社のプロデューサー、坂爪研一さんは、参集殿ではないプランにした理由をこう語る。
「入り口の鳥居から本殿にいたる参道と、参集殿との間には大きな駐車場があるんです。なので、参拝に来られる方の意識が、駐車場の向こうの参集殿には向かないんですね。一方で、参道側には雰囲気のいい場所が残っている。カフェをつくるなら、こちらがいいと思いました」
実は、坂爪さんたちの提案には、単にカフェのデザインだけではなく、年間を通じて竹駒神社を活性化していく視点が含まれていたと、宮司の村田さんはいう。
「提案書のプレゼンの際に、スマホの位置情報を解析した竹駒神社の人流データを見せていただいたんです。そのグラフを見て、私は大きな衝撃を受けました。1月が大きな山になっているものの、その後は、年末までまったく山がない。かつては、季節ごとに参拝者がいらしていたのに、現在では初詣に頼り切りになっている。年間を通じての底上げ策を考えませんか、というのが乃村工藝社さんのご提案でした」
正式に乃村工藝社案が採用となり、カフェの運営会社、建築の施工会社、造園会社、等々、地元の協力事業者探しが始まった。そのために、神社、七十七銀行、乃村工藝社のそれぞれが持つネットワークが動員された。例えばメニュー開発を誰に託すのか。探し出したのが、仙台の1つ星フレンチ「nacrée」の緒方稔シェフだった。このプロジェクトへ参加の道筋を付け、地元で協力会社の開拓や調整役を担った乃村工藝社・東北支店の営業主任、吉田圭助さんはいう。
「以前に、東北支店で緒方シェフのレストランを手掛けたことがあったんです。その縁で、ちょっとご相談をしたところから始まりました。カフェで出す食事なので、高級フレンチとは距離があるのですが、こちらの要望に快く応じて試作を繰り返していただきました」
メニュー開発以外のジャンルでも、地域の協力事業者が次々と見つかり、それぞれのスキルを確認した上で、プロジェクトに参加してもらうことになった。
白熱の検討会議を50回!

新たなカフェのコンセプトは「一粒万倍」と決まった。
「ここ数年、縁起のいい日として一粒万倍日がブームですが、それに乗るのではなく、農業の神様を祀る神社として、本来の意味に立ち返ろうと思いました。地域の活性化には、地域コミュニティの再生が必要です。さまざまな人たちが集い、その一人一人が一粒の籾になって万倍に実る。そんなカフェにしたいと考えて、提案しました」(坂爪さん)
このプロジェクトで特徴的だったのは、途中のプロセスごとに、徹底して議論し、意思決定をする検討委員会が設けられたことだ。回によって人数は変わるものの、だいたい神社側は神職、氏子総代を合わせて10人前後、乃村工藝社側は5~6人程度が参加。毎回、熱い議論が繰り広げられた。
「氏子総代の最高齢が86歳。若い方は20代。全員がものすごくお話しになる。熱量がすごいんです」(坂爪さん)
「宮司さんのおっしゃることを追認するという感じではなくて、それぞれご自分の意見をお持ちなんですね。みなさん、このプロジェクトを自分ごととして語られる。結局、この会議は50回ほど開かれました」(吉田さん)
特に会議で白熱したのは、カフェのロゴマークについてだった。カフェには村田さんから「杜のカフェ」「稲荷神社らしさ」というテーマが与えられていたが、「一粒万倍」と併せてどうシンボル化するのか、議論は果てしなく続いた。プロジェクト全体のデザインを担当した乃村工藝社のデザイナー、城土健作さんは振り返る。
「色々な世代に対して刺さるロゴにしたい。少し新しさとかモダンさが欲しいし、伝統的な神社の世界観も要る。そのさじ加減が難しいんです。それで、みなさんのご意見を聞くと、思いもしなかった視点での指摘がたくさん出てくる。稲荷神社なので、稲とか米のモチーフを、具象と抽象の間でどう形にするのか、毎回、バレーボールの球を打ち返す感じで、派生形も含めたら最終的には35案くらいつくったと思います」
村田さんは、この会議こそがプロジェクトの求心力になったという。
「我々神社の者と氏子総代の代表などが一緒に議論したことで、事業への関心も理解度も高まりました。色々な人から、いい意見がたくさん出ましたしね。手続的には大変でしたけれど、何か意見が出ると、次の会議には反映した案が上がってくるので、みなさん、どんどん真剣になっていきました」
巫女さんたちの意見を反映する

もうひとつ、関係者が熱く意見を交わしたのは、カフェのメニュー開発だった。緒方シェフが試作したオリジナルメニューの試食会が開かれ、神社の巫女さんや事務職員など、若い女性たちも参加した。ターゲット層の意見を聞きたいとの想いからだった。
「仙台の食器問屋を全部回りましたけれど、古いイメージのものしかなかったので、佐賀の有田まで探しに行きました。最終的には若い人の感性に合うものを選んで、シェフにはその食器を前提に組み立ててもらいました。
それで、試食会では、巫女さんたちからは膨大な意見が出ました。稲荷神社だからキツネのクッキーは2枚対にしたほうがいいとか、鳥居や松が重なっている美を表現してほしい。あるいは器は絶対に透明がいいとか。A4の紙2枚に、イラストも添えてビッシリと書き込んでくれた人もいます。
まだ、カフェはできていなかったので、仙台空港内のレストランを借りてやったんですけれど、空港ビルが消灯になる深夜まで議論は続きました」(坂爪さん)
後日、巫女さんたちの意見を取り入れ、大幅にブラッシュアップされたメニューが完成した。オリジナルの御膳やパフェには、遊び心で「一粒万倍みくじ」が添えられた。
杜をとり込み、杜にとけ込む

カフェの空間づくりは、当初から明確なデザインコンセプトで進められた。デザイナーの城土さんが語る。
「造園・建築・内装デザインを一体のものとして計画しました。建物は杜にとけ込み、中にいると神社の長い歴史や居心地のよさが感じられる。そんな場所はどこなのか。いくつも模型をつくって位置を検討したんです。その結果、最初の提案書より、少し鳥居寄りの場所に決まりました。
建物の着工前には、植わっていた樹木の診断をおこないました。老木などの一部伐採が必要だった樹木に、宮城県内の森林組合の協力で入手したナラ枯れ材も加えて、垂木や什器として使用しました。ロゴの刻印がある家具は、全部アップサイクルしたものです。最小限の製材で樹木の表情を残し、少し不揃いな垂木として天井にも使っています。
さらに、カフェの目の前は赤松林なのですが、カフェの店内から眺めると、幹ばかりが目立って、あまり緑を感じない。それで、赤松の根元に苔を入れて深い杜の風情を演出し、周囲には新たに23種類の植栽を施して、四季の移ろいを感じられる杜をつくりました。夜間にも赤松林と苔の姿が映えるようにライトアップの設備を整えてあります」
完成したカフェの建物は開放的で、広々としたガラス張り。まさに杜にとけ込むような存在となった。
カフェ建設が終わった今、乃村工藝社の吉田さんは、地域の人たちみんなでつくったという感慨を噛みしめている。
「だってこれ、みんなが参加して、みんなでつくったカフェなんです。神社さんだけではできなかったし、我々だけでもできなかった。銀行さんや地元の事業者の方々、そして氏子総代さんや巫女さんまでもが参加して、初めてつくれたんですよ」
七十七銀行の高澤さんは、地域への波及効果を期待している。
「それぞれの地域には、いいものがたくさんあるんです。ただ、地域の人しか知らなくて、なかなか表に出てこないし、外から来ていただかないと分からない。お伝えするやり方の上手下手もあります。ここは仙台駅や仙台空港からも近いですし、県外や海外からの旅行者が竹駒神社さんを知り、さらに県内のいいものを探索に行けるハブになればいいなと思います」
つくり上げたのは「メッセージ性が強いカフェ」
実際、カフェの滑り出しは好調だ。長期的な視点を持って、運営面での収支計画にまで踏み込んだプランニングの成果だと坂爪さんはいう。
「たくさんのお客さまが来てくださるのですが、オープンから日が経ってもその勢いが思ったほど落ちないんです。初年度売上は8000万円くらいを見込んでいて、これは仙台駅前の店舗と同じレベルの数字です。飲食だけでなく、[おキツネさんクッキー]をはじめ、新たに企画開発したお土産類の人気も数字を押し上げています」
宮司の村田さんは、カフェができたことで、境内の利用シーンが変わってきたという。
「このカフェは、非常にメッセージ性が強いんですね。単なるカフェではなくて、神社全体を俯瞰した中に、このカフェが生きている。目に見えて参拝者は増えていますし、カフェを使った定期コンサートも始まりました。境内でのイベントも、さまざまな企画が持ち込まれるようになりました。カフェが第一歩になりましたけど、地域の発信拠点として、これからやれることはたくさんあると思っています」
今、一粒の籾が芽吹こうとしている。

(2025年6月取材。記事の肩書は取材時のものです)
取材・文=能勢 剛(『日経トレンディ』元編集長)
写真=木内和美
プロフィール
村田守広さん竹駒神社
宮司
高橋健太さん七十七銀行
(七十七デジタルソリューションズ 出向)
高澤直樹さん七十七銀行 岩沼支店 兼 岩沼西支店
リーダー
坂爪研一さん乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第二統括部 リーシングリレーション部 プロデューサー
吉田圭助さん乃村工藝社
営業推進本部 東北支店 営業部 主任
城土健作さん乃村工藝社
クリエイティブ本部 第二デザインセンター デザイン1部 城土ルーム ルームチーフ デザイナー
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