「任せられる人がいない」とき、どう進めるか

新規顧客開拓や新規プロジェクトの開発を担う部門の山口です。
周年事業や節目のタイミングで、「自社の歴史や価値を伝える場をつくりたい」という話が持ち上がることがあるかと思います。例えば、企業ミュージアムやブランド体験施設のように、企業の考え方や魅力を伝えるプロジェクトです。
ところが、プロジェクトが動き出すと、「これは誰に任せればいいのか」「社内に相談できる人がいない」といった悩みが生まれます。私たちとしても、こうしたご相談をいただくことは少なくありません。
もちろん、自社内に単独で全てを進められる担当者がいれば理想ですが、そうもいかないことのほうが多いでしょう。そこで検討すべきは、自社内での「全て任せられる人」探しよりも、まず「社内でできること」と「社外の力を借りるべきこと」を整理することです。
社内にしかない視点がある
周年事業などで企業ミュージアムを構想するとき、社内にしか担えない役割があります。それは、企業の歴史や思想、価値を理解し、「何を語るべきか」を判断することです。
創業の背景や技術が生まれた経緯、事業に込められた思い。こうした情報は社内に蓄積されており、長く続く企業ほど図面や研究資料、商品開発の記録といったアーカイブも豊富に残っています。
ただし、ここでひとつの壁にぶつかります。資料をそのまま並べるだけでは、企業の価値は伝わりません。社内からの「何を語るべきか」はあっても、「どう伝えるか 」が決まらないのです。
企業ミュージアムは、資料を保管する場所ではなく、「誰に向けて、どんなストーリーを伝えるか」を設計する場です。
同じアーカイブでも、従業員に理念を伝えるのか、ファンや子どもたちにブランドの魅力を届けるのかによって、見せ方も取り出す情報も大きく変わります。誰に届けるかを起点に、どの情報をどう提示し、どのような体験として設計するかが問われるのです。
誰に届けるかで、見せ方は変わる
企業の歴史や価値を理解する社内の視点と、それを体験として設計する外部の視点は、性質の異なる専門性です。これらを一人の担当者に同時に求めてしまうと、判断の軸が曖昧になり、プロジェクトが前に進みにくくなります。
実際に、ある製菓メーカーのプロジェクトに関わった際、社内には商品開発や技術に関する豊富なアーカイブがありました。しかし、それをそのまま展示しても伝わりません。そこで、商品開発の工夫や裏側に焦点を当て、子どもたちやファンが楽しみながら理解できる体験型の展示へと再構成しました。
このとき、社内が「何を語るか」を、外部が「どう伝えるか」を担うことで、情報は単なる展示ではなく、体験として伝わるものになったのです。それぞれが担う判断領域が明確に分かれていたことも、プロジェクトがスムーズに進んだ要因のひとつです。
もし、全てを一人の担当者任せにしていたら、きっとこうはならなかったでしょう。
「任せられる人がいない」という状況は、決して珍しいものではありません。しかしそれは、人材の問題というよりも、一人に任せる前提で考えてしまっていることに原因があります。
先ほど例に出した件では、実際に完成した施設を後日訪れたとき、笑顔で楽しむ子どもたちの姿が印象に残りました。企業の思いや工夫が、体験として自然に伝わっていると感じられる光景でした。
その実現を支えていたのは、社内で価値を理解し判断する人と、専門性で応えた乃村工藝社が、それぞれの役割を担いながらチームとして機能していたことです。
「任せられる人がいない」と感じたとき、探すべきはひとりの人材ではなく、任せるべき役割。その役割を分け、社内外からそれぞれに適したプレイヤーを見つけることが、プロジェクトを前に進める起点になります。